水の中の街

 熱帯雨林が山のように絡み合った場所、その中心には、大きな湖がある。

 湖には青々とした草に覆われた小島が、点々としていて、飛び移りながらある程度奥まで行けそうだ。

「こんなところに、何があるのさ?」

 同行者が後ろから声をかけた。

「こんなところだからこそ、何かあるよ」

 島を渡りながら湖の上を進んで行くと、一際大きな島があった。

 グネグネと不思議な形に曲がりながら伸びている大樹が島から生えている。上に登れそうだ。

 同行者が、見上げるほどの大樹と私を交互に見ながら「登るのかい?」と聞いた。

「私が見てみたいのは木の上じゃないよ」

 大樹の根を伝って湖面のすぐ岸まで降りる。

 透き通った水の先に見えるのは、大樹の根と、まっすぐ伸びた水草の森。

「行ってみようか!」

 鏡のような湖面に波が広かった。


 やっぱり。ここでは息ができる。

「こんなに不思議な場所にある湖だもの、呼吸もできると思ったんだ。ほら、よく見て」

 水草の森の中、草の隙間から、建物のようなものが見える。

「あれは、街?」

「水の中の街だ……」

 けれど、人は居ない。

 湖の底、時間が止まっているような場所に、街があった。

「こんな場所に人が現れたら、恋をしてしまいそうだな」

「恋って、何するの?」

「その人が見ている世界を一緒に見てみたい、と思うことさ。ここに現れたってことは、こんなに素敵な場所を、私よりも先に見つけたって事だ、気になるだろ?」


 湖面に再び波を立て、大樹の根元に戻ってきた。

「……誰にも会わなくてよかったよ」

 そして、湖をあとにした。

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