どこかの街

ソルア

白い石柱の街

 見渡す限り砂の景色が広がっている。

 ここは数日前まで、白い石造りの美しい町だった。

 それが今はどうだ。

 街の中心に立つ真っ白な石柱だけを残して、ほとんどが砂の下に見えなくなってしまい、砂の凹凸で、そこに街並みがあったことは何とか確認できる、といったところだ。

「遺跡にでも来たような気分だ」

 ここは私が過ごした街。

 人々は綺麗な白い石造りの建物に暮らし、街の中心の石柱を街の平和と安定の象徴として大切にしていた。

 子供達は建物の間を駆け回ったり、街の色と同じ柔らかな砂を山にして遊んだ。

 私は幼いころに遊んだように、砂の山に飛び降りる。柔らかな砂は成長した私の重さも優しく受け止めてくれた。

 私が着地したのは建物の屋根だった場所だ。

 この町は中心に向かって低くなっているので、子供の頃は、道から下層の建物の屋根へ、飛び移って遊んだりもしたものだ。

 そういうことが出来る事は、変わっていないのに。

「誰も……、居ないんだな」

 人はいない。

 陽にキラキラと反射する砂に足をとられながら、街の中心を目指した。

『また いっしょにあそぼう はしらで まってるね』

 旅に出て、数日。手紙が届いた。

 どこから届いたのか、誰が届けに来たのか、それが全く分からない、気味の悪い手紙。

 ただ、「はしら」と聞いて思い当たるものが一つしかなかったから、私は確かめずにはいられなかった。

 数日の旅路をわざわざ引き返し、帰って来た街は見ての通り。

『はしらで まってるね』

 街の中央にある石柱は、この町の最外層の高さよりもはるかに高く、それは数日かけて街から離れた地点からもその場所を確認できるほどの高さ。

 石柱には螺旋状に足場が設置されていて、その上まで登ることが出来る。

 子供の頃、よく途中まで登ったっけ。

 頂上までは登った事がない。

 私の町にも、まだ知らない場所があったんだな、と不思議に思った。

「柱で待ってる誰かは、この上にいるのだろうか」

 そもそも、手紙は誰が? どこからやってきたかよりも、誰からの手紙なのか分からなかった。

 ただ、きっと昔の友達なのかもしれない。

 砂混じりの風に当てられながら石柱を登りきる頃には陽は沈み、曇りの空が広がっていた。

「来たね、待ってたよ」

 雲に隠れてぼんやりとした月明かりを背景に、手紙の送り主が笑った。

「ああ、君だったのか」

「君が居なくなって、ずいぶん寂しかったよ。街が一つ壊れてしまった」

 どうして忘れてしまっていたんだろう。

「この街が壊れてしまったのは、君にとって大変なことだったはずだろう? それすらも忘れてしまったのかい? ……僕の名前はリベルテ、かつて自由の街として美しかったリベルテさ」

 いいや、

「君は今でも私にとっては素敵なな街だよ」


「また一緒に遊ぼう」

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