第24話 試練 その二
「う、うわぁぁぁっ!!」
「なっ、ドラゴンだと!?」
「これが、試練……」
みんな困惑している。
それもそうだろう。
なにせ、魔物なんて滅多に見ないお国柄なのだ。
それなのに初めて見る魔物がドラゴンだ。
そりゃあパニックだろう。
ドラゴンなんてサーカスでも見ないぞ。
リックは怯えて足がすくんでいるようだ。
アルは魔物を見た事があるのか、みんなを守ろうとしているがドラゴン相手に焦っている。
乃愛は俺の手をギュッと握っているが、あまり慌てていない。トラックのおかげか?
ロザリアは怯えながらも気品があり、何か考え事をしているようだ。
ルナは怖い目つきでドラゴンを睨んでいる。
俺? 俺は大丈夫だよ。
魔物なんて雑魚ではあったけど、遊び相手にしていたし、熊や虎を狩っていたのだ。
それに俺には黒竜丸がついている。
魔法もあるし、妙な自身に溢れている。
「みんな落ち着け。ただのドラゴンだ」
『いやいや!ドラゴンだよ!?』
おお、よくハモるなこのクラス。
ツッコミも秀逸です。
「だいじょーぶだって。俺に任せとけ」
「さっくん?…うん。さっくんを信じるよ」
「の、ノルンさん」
「さっくんなら大丈夫だよ。それより、私たちも出来ることをしようよ」
「分かった。みんなできる限りドラゴンとサニーから距離を取れ!」
いいね。乃愛もアルも人を動かすチカラがある。
みんなの動揺や不安も幾らかはマシになったようだ。
俺は指輪だった黒竜丸を本来の大剣に切り替えた。
十歳にもなれば持てるようになるんだなと、初めて気がついたよ。
頼むぜ相棒!敵は一匹。
余裕だ、いける。
そう思っていたら、ドラゴンが大きな唸り声をあげ、息を大きく吸い込んだ。
「まずい、ブレスだ!よけろサニー!」
ブレス?火炎の息ですか?そうですか。
じゃあ黒竜丸さん、お願いします。
途端に黒竜丸は大盾へと姿を変え、それと同時にドラゴンが放ってきたブレスを簡単に受け止めてくれた。
「ふぅ、暑かった」
さすがに盾では熱までは防げなかった。
みんなは何故かポカーンとしている。
「そろそろサヨナラですね」
そう言いながら黒竜丸を大剣に戻し、土魔法で動きを止めた後、幻魔法で視覚を奪い、風魔法で首の後ろへ回り込んで、そのまま黒竜丸で切り落とした。
ドサッという音と共にドラゴンからチカラが抜けていくのが分かる。
気持ちの悪いことに、首はまだジタバタと暴れて動いている。
「はい、おしまい」
『はやっ!?』
おや、先生も混じっているようだ。
「先生、これで試練は終わりですか?」
「え、はいー。お疲れ様でしたー。ドラゴンを一人でだなんてびっくりですー」
そっか。おしまいか。良かった良かった。
「さっくん、だよね?」
「うん?おお、乃愛のさっくんですよ?」
「サニー、お前一体何者だ?」
「何って……ハーフエルフ?」
「え?さっくんもハーフエルフなの?」
「も?って乃愛もなのか……」
乃愛がハーフだったなんて知らんかった。
だから銀髪なのか。逆だったのか。
他にも色々と聞かれたが、何がおかしいのかわからない。
教室に戻ると、学級会議が始まった。
ルイ先生はいなかったけど。
報告があるとかなんとか。
「改めて聞くぞ。サニー、お前は何者だ?ドラゴンを倒すなんてうちの騎士団が総掛かりでたくさんの犠牲をだしてようやく倒せる代物だぞ。あそこに居たのもオカシイが」
何者だ?って聞かれてもなぁ。
そこまでドラゴンが凄いなんて知らなかったし。
これってもう隠せないんじゃ……。
「乃愛、ロザリア。もう言ってもいいかな?」
「うーん。言わないと収まらなそうだしね」
「仕方ありませんわね。お父様の言いつけを守れませんでしたが構いませんわ」
「そっか、分かった。言うよ」
言ったらもっと騒ぎそうだけれども。
初日からバレるってどういう事よ。
「えーと、どこから話すかな。とりあえず、サニーってのは本名じゃありません」
「偽名を名乗っていたのか。何のために?」
「うーん。実は俺、王子、なんだよね」
『はい?』
「だからさ。サーネイル、なのよ」
『ええっ!?』
まぁそうだろうな。
王子がクラスメートとか誰が想像するんだよ。
「ほ、ホントにサーネイル様なの?」
ああ。確かルナは尊敬してるんだっけ?
「本当ですわよ。そうでなければ私が許嫁に選ばれる事なんて有り得ませんもの」
「た、確かに」
「うん。改めてサーネイル・アルファ・エルグランドです。みんなよろしく(?)」
『ははーっ』
俺がサーネイルだと分かると、乃愛とロザリア以外のみんなが
「や、止めてよ。そんなガラじゃないから」
「でも王族の方ですよ。無礼なんて働けません」
「いやホントに敬語とか要らないし、畏まらなくていいから。気軽にサーネイルとかサニーとかって呼んで?」
「分かりまし……分かったよサニー」
さすがアルは物分りがいいな。
他のみんなを説得するのには結構な時間がかかったけど。
特にルナは最終的に感動で涙まで流していた。
やべぇよサーネイルさん。
「ルナ、落ち着いた?」
「うん。改めてよろしくね、サーネイルくん」
「あぁ、こちらこそ」
「うぅ…カッコよすぎる。ノルン、アンタ幸せ者ね」
「え、あぁ、うん。ありがとルナ」
乃愛、さり気なくあだ名パクってるな。
「あ、あの、サーネイル様。いや、サーネイルくん。サニーくんって呼んでもいい?」
リックが恐る恐る聞いてきた。
「もちろん!というかそう呼んでくれないと他の人にもバレちゃうから。俺のことはここにいるみんなだけの秘密な」
『はい!』
うむ。まだみんな堅苦しいけど、そのうち慣れるだろう。
アルなんかもう乃愛やロザリアレベルに達しているし。
「それでサニー。あの剣は何なんだ?」
「あーアレ?黒竜丸だよ」
「黒竜丸?」
「いや、正確には龍王刀・
「は?龍王刀の青龍だと!?」
「そんなにすごい物なの?」
「凄いも何も世界最強の伝説の剣だぞ!」
『ええっ!?』
これには乃愛やロザリアも驚く。
アルは騎士団長の息子なだけあって剣に詳しいな。
「戦争を終わらせた《緑龍》の兄弟刀って言えば分かるかな?」
「た、確か行方不明で存在するのかすら疑わしいと言われている剣じゃ……」
「あー、そんな事も言ってたな」
「どこでその剣を?王宮にあったのか?」
「いや。確かに王国にはあったけど場所は教えられない」
俺もよく覚えてないし。
あのおっちゃん、また来いって言ってたし今度行ってみるかな。
「最後に一ついいか?」
「なに?」
「誰に魔法を習ったんだ?あんな威力や使い方を無詠唱なんて一体……」
「あ、それ私も気になるー」
「ぼ、僕も興味ありますね」
「あーそれね」
誰って言われたらエマさんだけど、ほとんど独学だしな。正直に話すか。
「一部の初級以外は独学だよ?」
「独学?それは嘘だろう?」
アレ?信じてもらえないよ。
「いやホントだって」
「魔法というのは師匠を見つけて教わる以外に方法はないはずよ?」
「僕にも師匠はいました」
「私も」
「私もですわ」
「そんな事言われてもなぁ」
どうやって説明しようか?
あ、ルナが居るじゃないか!
「ルナ」
「どうしたの?」
「お前の家の農地って俺(の知り合いたち)が作ったんだけどさ、その奥の森とか平原とかが荒れてなかった?」
「確かに何かがぶつかったり、破壊された跡みたいなものがいっぱいあったわ」
「それ俺が魔法の練習で壊した所」
「え?そうなの!?」
「うん。四年くらい山に篭っててさ、その合間に農園を作ったんだ」
『えぇーっ!?』
どうだ。もう驚き疲れてきただろう?
俺も一度味わったからよく分かるよ。
「そこで狩りとか魔法の練習とかしながら自給自足の生活をしてたの」
「そうなのか。疑ってすまなかった。そもそもあんなのを教えられる人なんて居ないと思うしな」
「そうなのか……」
もしかしてこの世界に俺以上の魔法使いって居ないの?
いや、まさかな。
さすがにそれは無いだろう。
ひと騒ぎあった後、ようやくルイ先生が戻ってきた。
みんなには念を押して秘密にしてもらった。
「はーい、お待たせしましたー。では授業を始めますねー」
軽っ!ってかドラゴンについて説明求む。
と思っていたら乃愛から抗議があった。
「先生!説明してください。なんであんな所にドラゴンが?私たち、いえ、さっくんを危険に会わせるようなことして。わ、私…本気でさっくんを心配したんですよっ……。ふえぇーん」
最初は勢いがあったのに、だんだん涙声になってとうとう泣いてしまった。
乃愛…そこまで俺のことを……。
今、割と本気で結婚を考えました。
あの時は俺を信じると言って送り出してくれたけど、やっぱり心配するよなぁ。
俺も配慮が足りなかった。
終わり良ければ、なんて言えないよ。
俺はそっと
乃愛は「ふえぇーん、さっくぅーん」と若干、いや、かなり幼稚化していた。
可愛いなぁ、コイツめー。
いや、それは置いておこう。
真面目な話の途中だ。
乃愛が落ち着くと、先生が話を続けた。
「ごめんなさいねー。でも私にもわからないのー。何でドラゴンなんて出てきたのかしらー?」
『えっ?』
俺を含む全員が固まった。
俺が相手をしたから良かったものの、やっぱり他の奴なら歯が立たないのだろう。
そんな奴を学校なんかで飼っている訳でもあるまいし。
……ならどうして?
「ひょっとするとー、誰かがこの学校を、いえ、この国を潰そうとしている、のかもしれませんねー」
口調は軽いが目は笑っていない。
「私の生徒たちを危険に巻き込むなんてー、絶対に許しませんからねー」
ゾクッ。
そんな効果音が聞こえてきそうなくらいのオーラがルイ先生から溢れ出てきたのをクラスの全員が肌で感じ取った。
そして未知の恐怖に少なからず恐怖を覚えたのだった。
「それではー、授業を始めますよー」
そうして普通の座学が始まった。
みんな半分も頭に入っていないようだった。
そうした不安を持ちながらも、月日は流れていった。
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