第19話 再開と許嫁

  俺に双子の弟妹が出来てから四ヶ月ほどたった。


 こいつらほんっとに可愛いなぁ。

 レオは俺を見ると笑顔ではしゃいで、手を伸ばしてきて抱っこを求めてくる。


 リリィは寝顔が天使そのものだし、抱っこすると小さな手で服を掴んで離れないようにしながら顔を埋めてくる。


 なんかエマさんの気持ちが分かるような気がする。



 一応確認のために前世の言語で話しかけてみた。


 「えーと、こんにちは? ハロー? ニーハオ?」


 「あーう?」


 「だー!」


 なるほど、わからん。

 レオはキョトンとしている。

 リリィは笑顔だ。

 いつもの可愛い笑顔だ。


 うーん。やっぱり俺と乃愛が特別なのかな?

 可愛い弟妹がオッサンとかだったらヤだしな。


 「サニー様、もうそろそろお時間です」


 「あ、そっか。ありがとエマさん」


 時刻は夕方。そろそろ夕食の時間だ。

 しかし今日は特別な日。

 俺の十歳の誕生日だ。

 王族には十歳になるとお披露目パーティーなるものがなされるのだ。


 だが国民全員に姿を見せる訳ではなく、パーティーに参加するのは一部の貴族だけで国民には名前とその存在だけが公表される。


 つまりは学校生活に支障はあまりないのだ。

 ないのだが、やはり王族というものはめんどくさい。


 なにが嫌かって?

 上級貴族の令嬢みたいな女の子達に囲まれるのだ。

 要するに許嫁候補が群がってくるのだよ。


 だいたいは同い年くらいだが、小さいのだと五歳とか。

 二、三人はなんか執念みたいなものを感じるし。


 なんなんだよ。

 俺にロリコンになれ、と言いたいのか?


 おれには乃愛がいるんだよ。

 明後日には会えるんだよ。

 こっち来るんじゃねぇよ。


 しかし彼女らは上級貴族なので、幸い学校で会うことはない。

 父上も今のところはこれといって許嫁の話をしてこないので、まぁ大丈夫だろう。


 と、思っていたらあのクソ親父!

 翌日の朝に急に許嫁を紹介してきやがった。


 「ロザリアと申します。よろしくお願い致しますね、サーネイル様」


 「という訳だから。頑張れ、サーネイル」


 何を頑張れというのかな?

 その後少しだけ話を聞いてみた。


 ロザリアと名乗る女の子は俺と同い年で、国内でも一、二を争う有力な上級貴族のご令嬢だそう。

 父親は主な国営施設の運営を任されているらしい。

 あと明後日から俺と同じ学校に通うらしい。


 まぁ、可愛いらしい子ではある。

 でもさ、わざわざ俺と乃愛の邪魔をしに来なくてもいいじゃんか。

 どうせ親同士で決めたんだろうけど。


 「サーネイル様。お近づきの印にこちらを」


 「これは?」


 「赤い蕾の薔薇の花束ですわ。|私(わたくし)の気持ちでございます」


 そういう意味じゃないんだけどな。

 でもわざわざ言うってことはなんか意味があるのか?


 「むぅ。花言葉……か?」


 「その通りです。さすがは私が見込んだお方です」


 えーと確か赤い蕾の薔薇の花言葉は「あなたを愛しています」だっけ?

 蕾だけってあまり見栄えは良くないんだけど。


 というか政略結婚じゃないのかよ。

 会ったのはパーティーが初めてだから、一目惚れってやつか。


 チラッと泣きそうな目でエマさんを見てみる。

 なぜかエマさんも不満そうだ。


 「お断りします」


 素直かつ率直な気持ちを伝えた。だが…


 「ごめんサーネイル。それは無理だ」


 「はい?」


 「サーネイル様。平民の学校に通えるのは私の父上のお陰ですのよ」


 はぁ、そういう事か。

 父親は学校の運営を任されているから、特別に融通をきかせてくれたのだろう。


 その代わりに娘を許嫁にしろと。

 じゃあやっぱり政略結婚か?

 でも本人もまんざらでもなさげだし、両方か。


 随分と質が悪いな。


 だが断る訳にもいくまい。

 じゃないと乃愛との約束が守れない。

 仕方ないから表面だけは仲良くするか。


 「えっと、よろしく。ローゼ」


 「ローゼ……はい! ありがとうございますサーネイル様」


 薔薇を渡してきたから嫌味を込めて呼んだんだけど、気に入られてしまった。

 こんちくせうめ。



 そんなこんなであっという間に二日が経った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 いよいよ学校初日。

 この日は入学試験がある。

 と言っても義務教育なので、単に能力の確認とその結果を元にクラス分けをする為だろう。


 当然だが、ローゼは一緒にはいない。

 その代わりと言ってはなんだが、エマさんがついてきてくれている。

 それも校門でお別れだ。


 学校は王国の敷地の端にあり、王城からは一番遠い。

 その分平民は通いやすい位置にある。

 当然と言えば当然だが。


 身分を偽って通うのでいつもの服装や王城の馬車は使えない。


 ちなみに服はエマさんが作ってくれた。

 青と白を基調としたシンプルなデザインだがどこか気品が漂う、そんな感じの服だ。

 あと、寸分の狂いもなくぴったりだ。

 やはりエマさんはブレない。


 「サニー様。それでは私はここで」


 「うん。エマさん、色々とありがとう」


 「いえ、サニー様のお役に立てて光栄です」


 エマさんはレオやリリィにも優しく接するが、やはり俺が一番らしい。

 大きくなってからは抱きしめられながら眠れなくなったので、気づくと俺がエマさんを抱き枕にしている。

 エマさんは暖かくて、柔らかくて、いい匂いがして、すごーく気持ち良いのだ。


 いや、それは置いといて。


 「じゃあエマさん、ってきます」


 「いってらっしゃいませ」


 そうして校舎へと向き直った。


 試験は体育館のような建物内で行われる。

 集合時間まではまだ余裕があるので、校内を見て回ろう。

 そう思っていると、


 「お久しぶりです!サーネイル殿下」


 と、同い年くらいの銀髪の女の子に言われた。


 誰だ?

 ものすごく美人な子だけど。

 俺を王子だと知ってるとなると……

 いや、パーティーでは銀髪なんて見なかった。

 だとしたら。


 「もしかして乃愛?」


 「うん! さっくん、久しぶりっ!」


 「急に殿下って呼ぶんだもん。一瞬分かんなかったよ」


 「えへへ。さっくんは髪の色ですぐに分かるからねぇ」


 「そうだね。会いたかったよ乃愛」


 「私もだよっ!」


 やっぱり、かぁいいなぁ。

 すごくべっぴんさんになってる。

 前世も綺麗だったけど、こっちもいいなぁ。


 「ねぇ、さっくん。私、四年も待ったんだよ」


 「うん。どうして欲しい?」


 「ぎゅーって、して?」


 言われた通り、ぎゅーってした。

 そのあと、ちゅーってした。

 後ろでいろんな人がじーっと見てた。


 いや、やばいじゃん。

 幸いローゼはいないけど。

 乃愛の顔、真っ赤だし。


 俺は乃愛の手を引いてその場から逃げ出した。


 「緊張したね」


 「うん! でも、まさかさっくんがいきなりちゅーしてくるなんて……」


 あら?気づいてらっしゃらない?

 ただ照れてただけなのか。

 そこは変わらないな、じゃなくって。


 「あのさ、いっぱい人に見られたんだけど……」


 「ふぇっ?!」



 ハテナビックリだと!?

 相当驚いてるな、乃愛。


 「でもいっか」


 「え?」


 「見せつけてやればいいじゃん!」



 乃愛さん?

 ノルンになってから大胆になってますよ。


 「それは良いんだけど……」


 「けど?」


 「許嫁が。その……ね」


 「許嫁!?」


 「同じ学校に通うんだよ……」



 正直に言いました。はい。


 「す、好き……なの? その人のこと」


 「いや、俺は乃愛だ。乃愛だけだ。ただ……」


 「相手が……なの?」


 「はい……」


 

 乃愛さん?怖いよ?


 「そっか。でも私はさっくんの味方だからね?」


 「ありがとう、乃愛」


 「うんっ!」



 俺は乃愛の頭を撫でながら、笑顔でそう言った。

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