第20話 入学

 さて、無事に乃愛と再会出来た訳だがそろそろ集合時間である。


 時間厳守は社会人のマナーだ。

 分別のある立派な王族として守らねば。

 まぁ、今は中級貴族だけれども。


 そうこうしていると例の体育館前に到着した。

 まだこの辺りにはあの事件については広まっていないようだ。


 その代わりに別の話題が飛び交っている。


 何を隠そう、俺のことだ。

 正確にはサーネイル殿下のことだ。


 一昨日、俺の存在が明らかにされたので今日はその話で盛り上がっているのである。


 「サーネイル殿下って、どんなお方なのかな?」


 「現国王様もローゼ様も素晴らしい方だから、サーネイル様もきっと素敵な方だよ!」


 恥ずい恥ずい恥ず過ぎる。

 その素敵な方とやらはさっき公共の場で彼女とキスしてました。


 チラと視線を横に向けると、乃愛はなんだか自慢げだ。

 嬉しいんだか、恥ずかしいんだか。



 体育館っぽい何かに入ると、何かの合図が近くの先生(と思われる人)からなされた。

 ちょうど試験が始まったようだ。


 俺は乃愛と手を繋ぎたいのを我慢しながら案内に従う。

 指定された場所には既に列が出来ており、早速試験が行われている。

 そして俺たちにも順番がまわってきた。


 試験はまず、体力面を見られる。

 前世のスポーツテストみたいなもんだ。

 握力や反射神経など、それぞれの項目を順番にこなしていく。


 俺は家庭教師が来てからというもの、毎日欠かさずにトレーニングは積んできたし、山奥で修行もしていたのでかなりの好成績だった。


 ちなみに今、黒竜丸は右手の人差し指に「龍をモチーフにした指輪」として装備している。

 これならいつでも手に剣を構えられるので、理にかなっているのだ。


 乃愛は辛そうだったけど、でもだいたい平均くらいだ。



 次は場所を移動して、広い講義室のような部屋で筆記試験を受けた。


 だいたいの人は字が書けるが、中には名前が精一杯な人もいる。

 どこまで解けて、どれ位正解するかが問われるのだ。

 設問は一般教養なので、俺はもちろん、乃愛も充分に手応えがあったそうだ。



 次からは実技の試験だ。

 普段の家での仕事や得意な事など、何か一つを項目の中から選んでするのだ。

 畑仕事や料理、掃除に錬金術など色々だ。

 錬金術とはどういうものか何となくでしか分からないし、誰もしようとはしなかったけど。


 俺と乃愛はもちろん料理を選択した。

 乃愛の料理は試験の先生も唸るほどの出来栄えだった。



 最後は剣術と魔法の試験だ。

 この試験は任意で受けることになる。

 どちらも習っていないとほとんど出来ないからだ。


 ただ、剣術は比較的簡単に練習が出来るのでほとんど全ての生徒はそちらを受けている。


 魔法は本当に身内に魔法使いがいるか、先生を付けて尚且つ才能もいるので、受ける人はほとんど居なかった。

 やるのは貴族と冒険者の家の子くらいだろう。


 俺はどちらでもいけるが、首席を取るためには魔法の方が効率がいいので魔法にした。

 意外なことに乃愛も魔法を受けるらしい。

 なんでも、お父さんに習ったんだとか。


 そこには許嫁の方・・・・のローゼもいた。

 というのも、俺の母上もローゼという名前なのだから仕方ない。


 「あら、サーネイル様! 奇遇ですわね」


 「やぁ、ロザリア」


 「あら? ローゼと呼んでいただいてもよろしいですのに」


 「……あのなぁ。それは現王妃の名前だぞ」


 「あっ! そういえば……。申し訳ございません。気づかずに調子に乗ってしまいました」


 なんだよ。素で気づいて無かったのかよ。


 「えっと、さっくん? この方は?」


 「あー、えっと、例のアレだ」


 「許嫁さんですか……」


 「うん……」


 乃愛の顔が一気に暗くなるのが分かる。

 それに対し、ロザリアは話を続けた。


 「サーネイル様? そちらの平民の娘は?」


 「あぁ、乃愛……じゃなくって、ノルンだ」


 「初めまして、ノルンって言います」


 「お初目にかかります。ロザリアと申します。ご存知の通り、サーネイル様の許嫁でございます」


 イヤミかよ。

 俺は認めてないから非公認だけどな。


 「そう……ですか」


 「ええ。以後お見知りおきを」


 「でも、さっくんは渡しませんから!」


 「何ですって!?」


 「私がさっくんの彼女なのっ! あなたが生まれてくる、ずっとずーっと前から一緒にいるんだから!」


 「なにを訳の分からないことを」


 「さっくん。こっち向いて」


 「え? なにをーー チュッ」


 俺が答え終わる前に乃愛の方からキスをされた。

 騒動を聞きつけて少し前とは比べ物にならないくらいの人たちに見られてしまった。


 「ちょっ! 乃愛」


 「さ、さっくんは私のだから……」


 「あ、貴女! 今何をしたか分かっていますの?」


 いよいよ収まりがつかなくなって来た時、野次馬の奥から魔法担当の先生が現れた。


 「おい、お前達! 何を騒いで……はっ! これはこれはロザリア様」


 「何っ? ロザリア様だって?」


 「本当だわ! お美しい」


 「キャーッ! ロザリア様ー!」


 ロザリアの存在が明るみになると、野次がロザリアコールを始めた。


 いや、始めようとしたが先生に止められていた。

 どうやらロザリアは相当な人気のようだ。


 「お前は……なんだ?何をロザリア様と揉めていたのだ」


 「えーっと、その……」


 「女同士の戦いですわ!」


 「そうですか。とにかく一度話を……」


 「その必要はありませんわ。ノルンさんとやら」


 「何ですか? さっくんは渡しませんから」


 「いいからそのお方から離れて。私と決闘をなさい!」


 「決闘?」


 なに?

 このバトル漫画的な展開は?

 乃愛に戦えというのか?


 「何も、血を流してとは言いませんわ。この魔法の試験で勝負しましょう」


 「良いですよ。さっくんは私のだって証明して見せますから」


 良いのかよ。

 お、俺のために争わないでー(棒)


 「一応言っておきますが、私は水と風の中級を持っているんですのよ?」


 「いいから早く始めましょ」


 そうして決闘(?)が行われた。

 結果は乃愛の勝利、いや、圧勝だった。


 まずロザリアが詠唱し始め、水と風の魔法を駆使して、ミニハリケーンを作り出した。

 周囲からは「おおっ!」という声が聞こえたが、それ以上に乃愛が凄かった。

 乃愛は長い詠唱のあと、土魔法でミニケーンを食い止め、風魔法で相殺し、水魔法で一箇所に水や土の残骸を集めたあと、火魔法で水を蒸発させた。


 つまり、四属性の使い手なのだ。

 階級は分からないが、それは関係ない。

 階級とは、その人の師匠が与えるもので、明確に区別がされている訳では無いからだ。

 普段はその人の実力の目安として用いられる。


 乃愛は歓声を一身に受けながら、俺に飛びついてきた。

 周りからは「ヒューヒュー」とか「お前もやってみろー」とか聞こえたので、調子に乗ってしまいました。

 ついつい、やらかしてしまったんだよ。


 何も無いところ異空間収納から丸太を大量にだして、それぞれを火で灰ごと消したり、水刃で切り裂いたり、真空刃(しんくうは)で切り刻んだり、土と幻魔法で木像を作って動かしたりと、とにかく色々としてしまった。

 もちろん無詠唱で。


 だが、俺の心配は杞憂に終わった。

 周りからは賞賛と拍手喝采が贈られ、乃愛も凄いとはしゃぎながら抱きついてきたし、先生などの魔法を使える組も驚いた顔をしていた。


 ロザリアは尊敬の眼差しと賛辞を言ったあと、「今回は貴女の勝ちですわね」と、言い残して帰っていった。


 もはやお祭り騒ぎだった。



 翌日、入学式が執り行われた。

 ここでやっと正式な名称を知ったのだが、学校名は「ルグラ国立国民学校」と言うそうだ。


 昨日の試験の首席が代表で挨拶をするのだが、当然のように俺が選ばれた。

 ちなみに両親やエマさんも当然、見に来ている。


 式場には全校生徒や先生、保護者がズラーッと並んでいるのだ。緊張しない訳が無い。


 緊張でいっぱいの中、アナウンスによって合図が送られた。

 というか拡声器あるのか。

 あ、魔道具か。


 「それでは新入生代表による挨拶です。サニー・ンザーロ君よろしくお願いします」


 おお。名前が変わっている。

 これは父上の配慮か。

 完全な偽名では無いし、いいか。


 行くぞ。やるぞ。俺はやれば出来る子。

 そう意気込んで、ゆっくりと壇上に上がった。


 「御紹介に預かりました、新入生代表サニー・ンザーロです。今日のこの良き日に、保護者国王と王妃や御来賓の方々に見守られ、教師、在校生の方々に迎えられ、このルグラ国立国民学校に入学出来たことを大変嬉しく思います」


 とりあえずタテマエは無事終了した。

 次をどうやって繋げようか。

 やっぱり次はホンネですかね。


 「僕は代表という立場にいますが、正直、荷が重いです。親には首席を取り続けろと、言われていて、大変です。あと、ンザーロという姓ですが、ハーフです。だからエルフっぽく無くても気にしないでください。少々抜けているところはあると思いますが」


 こうやって思いっきり下げる。

 下げてから上げる。

 これ常識(?)。


 「ですが、だからといって、手を抜く訳ではありません。勉学にもしっかりと取り組み、より一層励みたいと思います。それと、友達も募集しています。なにぶん、不器用なので色々と支えてくれたら嬉しいです。最後に先生や先輩方、生意気だとは思いますが、優しく接して下されば幸いです。新入生代表サニー・ンザーロ」


 俺が軽く締めると、拍手が送られた。


 ふぅ、なんとか完遂したな。

 ミッションコンプリートってやつだ。


 席に戻ると隣にいる乃愛が「お疲れ様っ!」と、小声で言ってくれた。可愛い。


 その後は在校生代表や国王父上の挨拶があった。

 俺がふざけたことに対しての言及は無かった。


 そして式が一通り終わると、クラスが発表される。

 クラスはAからDまであり、試験の成績順に分けられる。


 俺はもちろんAクラスだが、乃愛は……っと、同じAクラスだったようだ。


 やったね、ハッピー!

 前世からずっと同じクラスだよ。


 発表が終わると、先生に先導されて教室へと入っていった。



 途中で乃愛との事を色々と聞かれたのは言うまでもない。


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