第13話 長い一日 その一

「ふぅ……疲れたぁ」


 王宮の自室に戻った最初の一声がこれだった。

 今日はびっくりするくらい色んな、それも驚くような事ばかりが続いたのだ。

 全部話すと長くなるがこの際だ。

 全てをお伝えしようじゃないか。




 まず最初に。


 ノルンちゃんは乃愛だった。


 言われてみるとそうなのだろうと思う。

 日本のことを知ってる時点で怪しいとは思ったが、あの料理のスキルは間違いない。

 高校の三年間、ほぼ毎日食べ続けてきた乃愛の手料理を、あの味を俺が間違えたり忘れたりするもんか。


 乃愛の手料理は俺の青春だ。

 いつも母さんの作る晩御飯は物足りなかったくらいだ。


 そもそも会った瞬間から何か変な感じがしたし、どことなく乃愛に似てると思ったんだよ。

 本人だったけど。


 俺はもう前世に未練がない。

 と、言ったら嘘になる。


 だが、両親に別れの挨拶が出来なかったのと、1本だけ見ていたアニメの続きが少し気になるだけだ。

 いや、両親の挨拶はしたかな?

 あの日家を出る時に「行ってきます」とは言ったからな。

 「逝ってきます」と取れなくもない。


 だから大丈夫だ。未練はない。

 乃愛のいる俺は無敵だ!と、思っておく。

 とにかく、今から五年後が楽しみなのである。



 次の話からは少しだけ時間を遡る。

 乃愛と約束して四区に向かった所からだ。


 四区は思い描いていたとおり。

 いや、それ以上に活気のある場所だった。

 世界中から色んな商人が集って来ていて、実に様々な物が所狭しと売られていた。


 俺はここで買いたいものがあった。

 それは自分専用の剣だ。

 父親国王に頼めば見繕ってくれるだろう。だが、自分の身を守るものくらいは自分で選んでみたいのだ。


 結果から言うとスゲェのが見つかった。

 人混みでごった返しているバザーの通りを一本横に抜けた路地裏の奥にその店はあった。


 古くてこの世界では珍しい木造の店で、いかにも骨董屋だと分かるような雰囲気を醸し出していた。

 いつもの俺なら見かけても入ろうとはしなかっただろう。

 だが、その時は何かに導かれるようにその店に吸い込まれていったのだ。


 エマさんは警戒しながらも無言で付いてきてくれていた。

 やっぱり優しいし、頼りになる。


 店に客はいなかった。

 居たのは歳をとった獣人と思わしき老人の店主だ。

 その老人はじっとこちらを見てきて一言、「久しぶりの客じゃな」と言った。


 不思議に思ったが、こんな道外れにあるのだ。近づく人が少ないのだろうと思っていた。


 「あの、剣を探しているのですが」


 「ふむ。では手を出してみろ」

 

 これまた不思議だったが、素直に右手を差し出した。

 その老人は俺の手をじっと観察し、時に触ったりして「ふーむ……」と唸っていた。

 老人の手はとてもゴツゴツとしていて、只者じゃないと思った。


 「なるほどな」


 「えっと、あの……」


 「お前さんに合うのを出してやろう」


 そう言いながら店の奥の厳重に管理された金庫のような所から一口ひとふりの大剣を大事そうに担いで運んできた。


 「ちょっと持ってみい」


 「はい……って、うわっ!?」


 俺が自分の身長よりも大きかったその大剣を持った瞬間、剣が俺にちょうどピッタリな太刀くらいのサイズに変形したのだ。

 なんだろう……祭りの景品とかで見かけるようなオモチャの剣に見えなくもない。

 それに、とっても軽い。


 「ふむ。やはりそうか」


 「ええっと、何が何だかよくわからないんですが……」


 「その剣は持ち主を選ぶ。が、今まで誰も認められた者はおらん」


 「そうなんですか?」


 「ああ。じゃが、一度認めると持ち主の状態やその時の環境に合わせて形を変形するのじゃ」


 「じゃあ小さくなったのは……」


 「その剣がお主を認めたのじゃ。お主が死ぬまでその剣はお主を守り続けるであろうぞ」


 なんということでしょう。

 頑固で意地っ張りな、意思や理性が備わっているらしい剣に認められたみたい。


 「喜ぶべきですか?」


 「フハハハ! 面白い奴じゃのう」


 「えっと、何がでしょう?」


 「その剣はこの世にたったの二口ふたふりしか存在しない伝説の龍王刀じゃぞ」


 ええぇっ!?

 伝説の剣?

 マジかよ。


 「そんなにすごい剣なら結構な値段がするのでは?」


 「金なんぞいらん。ワシは今、歴史的な瞬間を目にしたのじゃ。それで充分じゃよ」


 「本当にいいんですか?」


 「構わん。どのみち認められなければ、ただのなまくら同然じゃからな」


 改めて剣を見てみる。

 黒と青を基調とした鞘に、細長くしっかりとした真っ黒な刀身。

 綺麗な装飾がされた鍔に、龍の装飾と謎の紋章が描かれている柄。


 どこを見ても美しく、そしてこれが決して偽物や安物で無いことはひと目で分かった。


 「あ、ありがとうございます!」


 「ああ、大事にしてやってくれ。また、何かあったら寄るといい」


 「はい! 本当にありがとうございました」


 そう礼を言って、店を出た。


 めちゃくちゃいい人じゃないか。

 見る目もあるようだったし、何よりタダでくれたのだ。

 安いのを買うつもりだったのであまり手持ちがなかったから、素直に嬉しかった。

 

 そうだ!

 名前を付けよう。


 そうだな。

 よし、黒っぽいから黒竜丸だ!


 「今からお前は黒竜丸だ! よろしくな、相棒」


 そう言うと微かに剣が動いた。気がする。

 いや、確かに動いた。

 やはり意思がある。


 「あの、サニー様」


 「あ、どうしたの? エマさん、一言も話さなかったけど」


 「ご自分がどんなにすごい剣を手になさったのかわからないのですか?」


 「え?」


 「龍王刀とは世界最強の双子刀です。その片割れ、兄刀の青龍を手になさったのですよ」


 「と、ということは……」


 「今のサニー様は世界最強の剣の持ち主です。本来なら国宝として厳重に保管されているべき剣なのですよ」


 ああ、思い出した。

 確か三千年前に人魔大戦というのが起こって、それを鎮めたのがこの青龍の弟刀の緑龍だと本で読んだことがある。

 持ち主の命と引き換えに海や大地を割ったとか。


 それで今の地形が出来て、人と魔物の住む世界が離れて大戦が終わったみたい。

 だが、緑龍の何倍もある青龍は行方不明だったらしい。

 そしてそれが、俺が今持ってるやつだ。


 さらにエマさんが追撃をしてくる。


 「サニー様。そもそもあの店はおかしいのです」


 「んーと、どこら辺が?」


 「まず、普通の人はあの店まで辿り着くことすら出来ません」


 「えぇ? なんで?」


 「あの路地裏の前に結界が張ってありました。あの結界は魔力がものすごく強い者にしか通れないようになっています」


 「それはつまり、僕の魔力が膨大だってこと?」


 「ええ。それとそんな結界を張れるあの老人もかなりの強者(つわもの)ですよ」


 マジかよ。

 嬉しいけど、謎だ。

 なんでそんなモンを作ったのか。

 まぁ、伝説の剣を置いてあるくらいだから何か意味があるのだろうな。



 と、まぁそんな感じで剣をゲットした。

 それが二つ目の話。


 三つ目からは四区を見回った後、王宮に帰ってからの話だ。


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