第14話 長い一日 その二

 さて三つ目の話だが、これは怒られた話だ。


 誰に怒られたかって?


 父親だよ。

 国王なんだよ。

 なんでだよ。


 黒竜丸を手に入れて上機嫌になった俺。

 帰り道はエマさんと手をつないで、スキップしながら王宮に帰った。

 ちと子どもっぽかったかな。


 「エマさん! 三日間、短かったけど楽しかったよ。ありがとう」


 「いえ、こちらこそ久しぶりに楽しい思いをさせていただきました。ありがとうございました」


 そう言って楽かった三日間を思い返していた。

 だが、王宮ではそうはいかなかった。


 門番をしている兵士さんに敬礼しながら通ろうとすると止められてしまった。


 「今王宮へ通すことは出来ん。立ち去れ」


 立ち去れと言われましても、ここが僕のお家です。


 「何があったの?」


 「王子さ……いや、何でもない。人探しをしているだけだ」


 ん?

 遊びに行くってここまで話が通って無かったのかな?


 「あ、ごめんなさい。僕、王子です。ほら」


 そう言ってフードを外す。


 「何を言って……さ、サーネイル様!?」


 「あ、うん。ただいまー」


 「今までどこにいらっしゃったのですか!?」


 「え? 街に遊びに行ってただけだけど……」


 「こうしちゃいられない、一刻も早く国王様にご報告せねば! サーネイル様、急ぎ謁見の間にお向かいください!」


 どうしたんだ?

 国王になんかあったのかな?


 「わ、分かった。すぐ行くよ。エマさん」


 「はい。急ぎましょう」






 所変わって、謁見の間。



 「このぉ!バカ息子おおぉぉぉ!!!」



 いきなり怒鳴られた。


 何故だ。

 俺が何をした。

 隣には珍しく母上もいる。


 「ど、どうなさったのですか? 父上」


 「どうしたもこうしたもあるか! なんで遊びに行くと嘘をついてまで居なくなるのだ! エミリア、お前がついていながら何故だ!」


 「「はい?」」


 エマさんと声が被った。

 そらそうだ。

 だって身に覚えがないんだもの。


 「国王様、誤解です! サニー様は嘘などついておりません」


 「では何故城に戻って来なかったのだ」


 「えっと、父上。外出の許可がいらないらしいので、二泊三日の国内旅行をしていたんですよ」


 「それは日帰りの話だろう」


 「え? そうなんですか?」


 「あれ? そんな話をしてたんじゃ無かったっけ?」


 あー、そういうことか。

 つまり、日帰りで帰ると思って軽く見送ったのに三日間も城に戻らなかったから心配してくれたのだ。


 なんだ。

 親らしいとこあんじゃん。


 その後、少し話したら分かってくれた。

 さすがはエルグランド王。

 人の話を聞いてくれる良い王だ。


 「あはは、ごめんね。勘違いしてた」


 「いえ、こちらも言葉不足だったので」


 「そっか。それで、楽しかった?」


 「はい! とても良い思い出になりました」


 もう本当に。

 えがったですぜ。

 色々と。


 そのことについてふわっと説明した。


 「あのさ、サーネイル」


 「なんでしょうか、父上」


 「お前、なんて物を持って帰ってきたんだよ」


 「ああ、黒竜丸ですか」


 「黒竜丸!? 伝説の聖剣にそんな……そんなカッコいい名前を!?」


 「そ、そうですか。サーネイル、大きくなりましたね」


 母上も感動してる。

 と言うかそんなカッコいいかな?

 勢いとノリでつけたんだけど。

 あと、僕はまだ五歳です。


 「それに友達も出来たのか」


 「えーと、まぁ」


 ごめんなさい。

 乃愛です。

 彼女です。


 友達なんかやっぱり出来ませんでした。

 こんちくせう。

 いや、乃愛さえ居ればいいのさ。


 「学校に行く約束をしたと言っていたな」


 「あ、はい。そのことですが……」


 「行っても良いぞ」


 「え!? 本当ですか」


 「ああ。ただし……」


 「ただし?」


 「主席を取り続けること。それが条件だ」


 そうだろうな。

 王子だもんな。

 平民に負けたらメンツが危うい。

 が、余裕だろう。


 「分かりました」


 「まぁ、サーネイルなら余裕なんだろうけどな……」



 父上が何か言ってた気もするが、小声だったからよく聞こえなかった。

 別に聞き返すほどのことではないだろうし、いいかな。

 


 と、まあ、こんなのが三つ目だ。



 まだまだあるぞ。

 四つ目はエマさんのことだ。


 三つ目のすぐ後の話になる。



 父上の誤解も解けて逆に驚かれたあと、ふと気づいたことがある。

 父親が怒鳴っていた時、エマさんのことをエミリア・・・・と呼んだのだ。


 「それで父上」


 「どうした、まだ何か?」


 「エミリア、とは?」


 「それはエミリア本人から聞いた方が良いだろう」


 「そうですね。では部屋を移します」


 「うん。ローゼも一緒に行ったらどうだ? 関係無くはないだろ?」


 「ええ。分かりましたわ。行きましょう、サーネイル」


 と言うことでここは母上の部屋だ。

 部屋は本や書類まみれで仕事のハードさが伺える。でも片付いているのだ。謎だ。


 「それでエマさん、どういう事ですか」


 「ローゼ様、いえ、姉様・・宜しいでしょうか?」


 「構いませんわ。どうするにしても隠せないことなのですから」


 「ね、姉様!?」


 もうワケワカメ。

 驚くことが多過ぎて疲れてきたよ。


 「サニー様。私の本名はエミリア・ンザーロと申します」


 「ンザーロ?ってもしかして」


 「はい。ローゼ様の旧姓です。そして私とローゼ様は姉妹でございます」


 うわーぉ。びっくりびっくり。

 驚く気力も無くなってきた。


 「ごめんなさいね、サーネイル。隠すつもりは無かったのですけれど」


 「うん。でも「ン」から始まる姓ってエルフ特有のヤツでしょ。ってことは、つまり……」


 「ローゼ様もエルフです。そしてサニー様はエルフと人間のハーフの変異種でございます」


 もうおかしいって。

 やだよ。


 エルフの特徴とか既に身長以外ないじゃん。

 変異種って変異部分が多いほど強大なチカラがあるんだよ?

 俺は、もはや化け物じゃ無いですかね?


 本によると人とエルフのハーフは、それだけで能力が異常に高くなるらしいし。


 「あはは。おかしくなりそう」


 驚きすぎて疲れたのか、足元が覚束ない。

 フラフラする。

 やはりまだこの身体は幼すぎる。


 「さ、サーネイル! 大丈夫?」


 母上が抱き抱えてくれる。

 珍しく母親らしいじゃん。

 そういえば耳が尖ってる。

 髪で隠れててよく見えなかったけど。

 これは意図的に髪型を変えているな。

 でも髪は金髪だ。もしかして……


 「母上も変異種なの?」


 「いいえ、違いますわ」


 「あれ? そうなの?」


 生まれた時は地毛に見えたのに。


 「家族の誰も相手をしてくれない中、姉様だけは私をかばってくれていました」


 「エミリアの気が少しでも楽になるように自分の魔法で髪を染めたのよ」


 なるほど魔法か。

 でも幻魔法だ。

 やっぱりおかしいよ、この一族。


 「なるほど。あ、母上とエマさんが姉妹って事は……」


 「私とサニー様は叔母と甥の関係です」


 なんてこった。

 もうリアクションできないよ。

 一生分驚いた気がするぜ。


 「そんな唯一私に優しかった姉様の勧めでここの侍女を始めたお陰で、サニー様にこうしてお会いすることが出来たのです」


 「へぇー。でも、なんで偽名を?」


 「それは……また別の機会にいたしましょう。サニー様もお疲れでしょうし」


 はぐらかされた。

 でもいいや。

 流石に今日は疲れたし。




 そうして驚きまくった日だったが、まだもうひとつ驚いたことがある。



 最後の五つ目は当初の目的である、魔水晶についてのことだ。



 たーくさん驚いた後、俺はフラフラしながら当初の目的を果たそうとしていた。


 「サニー様、お休みになられては?」


 「せっかく母上の部屋に来たんだからやっていくよ」


 「そうですか……」



 エマさん心配そうだ。

 流石にもう隠し事はないだろう。

 無いよね。

 あったら死にそう。


 あ、偽名があったか。


 「サーネイル、これが魔水晶ですわ」


 うん、普通の水晶だ。


 もう驚かないぞ。

 俺は鋼の精神を手に入れたのだ。


 「どうするの?」


 「水晶に両の手で触れてごらんなさい。色によって魔力適正が示されますから」


 「分かりました」


 俺はいわれるがまま、水晶に触った。

 すると水晶の色が変わり始めた。

 最初は赤、次は青、緑、茶色と。


 分かった。

 これは各属性を意味するんだ。

 火、水、風、土だな。


 そして、当然のように紫色になった。


 幻魔法もいけるのかよ。

 全部じゃん。

 全属性じゃん。


 次に真っ白になった。

 次は多分、階級だ。


 白、水色、青、紺色、黒と変化した。

 初級、中級、上級、超級……災害級!?


 ぜ、全属性の災害級がいけるのかよ。


 ふと後ろを振り返ると、エマさんは驚いた顔を、母上は青い顔をしていた。


 やったぜ。

 お返ししてやった!


 そんなことを考えていると、前からものすごい熱を感じた。

 水晶だ。

 水晶は熱を帯び、ところどころヒビが入っている。

 やばくない?と思った瞬間、「パリィィン」という音と共に魔水晶は砕け散った。


 「あ、あの。ご、ごめんなさい……」


 取り敢えず謝る。

 水晶、壊しちゃった。


 「さ、サーネイル。あなた……」


 やば。

 怒ってる?のかな。


 「サニー様、この魔水晶は災害級の適正までしか測ることが出来ません。それ以上は耐えきれずに壊れてしまうのです」


 「つ、つまり……」


 「貴方様には全属性の伝説級までの魔法の才能がございます」


 「えぇぇ……」



 これが五つ目。


 もうヤだよ。

 普通の暮らしがしたいよ。

 もちろん乃愛と。

 あとエマさんと。



 とまぁ、こんな感じで驚きまくったのだ。


 ふぅ……。

 今日は疲れたからスグに眠れそうだ。


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