第9話 お忍び その二

 本当の意味で、生まれて初めてならず者と夜の追いかけっこをした翌日の朝、俺はエマさんとあらかじめ持って来ていたサンドイッチを頬張りながら昨日の反省をしていた。


 「昨日は危なかったね」


 「はい、ご無事で何よりです。サニー様を狙おうとする者など本来なら私が切り刻んでやるところですのに」


 怖い!

 怖いよエマさん!

 敵じゃなくて良かったぜ、まったく。


 「あはは。お忍びだから仕方ないよ」


 「そうですね……奴らから逃げられたのはサニー様の機転が効いたからでございますし」


 「それにしても街の治安ってあんなものなの?」


 「それは領土が広すぎる故に仕方が無いことで、王宮でも問題にはなっているのですが……」


 「帰ったらその辺も報告しないとだね」


 「そうですね」


 まったくあんな軽いノリで送り出された身にもなって欲しいもんだ。

 それも問い詰めなければ。


 俺が言い出したのだけれどもね。


 まぁ、今は置いといて旅行だ。


 「それよりエマさん、今日はどうする?」


 「そうですね、四区で買い物などいかがですか?」


 「買い物したら荷物になるから最後の日がいいな」


 「それもそうですね。では三区は観光の名所もございますのでそれを見に行きましょうか」


 「うん。案内お願いします、エマさん」


 「お任せ下さい、サニー様」


 そんな感じで三区に来た訳だが、これは凄いな。

 二区の街並みも凄かったがここは別格だ。


 何が凄いかというと、遊園地があるからだ。


 元の世界の「でずにー」程ではないが、ちゃんと観覧車とかジェットコースターとかがある。

 マジでビビった。

 科学は無いはずなのに。


 「これって……魔法?」


 「はい、風と土と幻魔法の応用ですね。国王様が特に力を入れて開発なさった観光名所です」


 チカラ入れ過ぎや。

 こんなん人気になるに決まっとるですやん。


 「なんでも出来るんだね、魔法って」


 「幻魔法が特別なのです。あと、シャルマン語の会得も非常に重要なのです」


 シャルマン語か。

 「日本語もどき」というか、日本語そのものだ。


 それより幻魔法がおかしいのだ。

 幻魔法一つで回復から召喚、異空間収納や転移まで物体としてハッキリとした物以外なら大抵の事はこれ一つでこなせてしまう。


 極めればブラックホールやビックバンも起こせるらしい。

 当然伝説級だが。


 「でも幻魔法って使える人ほとんどいないんじゃ……」


 「そうですね。国内でも私を含むたった五人しか使えません。しかも、私以外の者は上級までしか使えません」


 逆に言うと、上級で遊園地が作れるのだが。


 「そっか。それよりエマさん、一緒に遊びに行こうよ」


 「よろしいのですか? 私のような者と一緒で」


 「えっ、何が?」


 「ここは、基本的に恋人や家族が楽しむ施設なのです。サニー様となんて恐れ多いのですよ」


 「そんなことか。大丈夫だよ、エマさんは家族みたいなものだもん」


 「家族……ですか。分かりました。ありがとうございますサニー様!」


 実際、本当に家族みたいなものだし。

 生まれてからずっと一緒だし、俺にとっては本当のお姉さんみたいな感覚だからな。


 それから俺はエマさんと思いっきり楽しんだ。

 俺は乃愛と何度か遊園地に行ったことがあるので、エマさんをいろいろと連れ回した。


 ゴーカートで競争したり、コーヒーカップやジェットコースターで目を回したり、サーカスで盛り上がったりと大はしゃぎだった。


 ここまで再現されていると他にも元の世界の人がいるんじゃないかと思ったが、大した疑問にはならなかった。


 それはエマさんがとても楽しそうだったから。

 今までずっと王宮暮しだった俺はもちろんだが、エマさんも家族のような存在とはしゃぐという経験はなかったのだろう。


 エマさんの明るく惹き込まれるような笑顔はとても美しく、そして可愛かった。


 昨日の夜にパスト店のおばさんから貰ったオヤツ(大学いものようなもの)も二人で仲良く分けて食べた。

 おいしくてこれまた懐かしい味だった。


 夕暮れ時、最後に乗った観覧車の中で「サニー様、何度も言うようですが私はサニー様に出会えてからずっと幸せです」と言われて、愛の告白を受けているようで何だか恥ずかしかったのは内緒だ。


 暗くなってからは昨日より警戒しつつ、仲良く手をつないで近くの宿まで歩いて帰った。



 そして宿に着いた時、事件は起こった。

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