第21話

僕の入院は

一カ月くらいだった。


まずは原因が分からず

その頃とても珍しい

MRIという機械のある病院に

入院していた病院から

救急車で向かった。


僕は自分を保つのが

精一杯だったから

その移動も

苦痛だった。




入院して12日目に

やっと原因が判明した。


髄膜炎からくる

小脳炎と診断された。



診断名が

小脳炎じゃ

なかなかわかってもらえない。


今の時代なら

小脳炎って

有名人がなったから

認知されたけどね。



小脳は

運動機能を司る

臓器なんだ。


その小脳に

ウィルスが侵入したんだ。

髄膜から。


僕が立てなくなったのは

その仕業だ。


何度も背中の腰の辺りから

髄液を取られて

痛いってもんじゃない。

ある程度の痛みは

耐えられたが

これは無理だ。


麻酔の麻酔って

あるんだ。

麻酔針を打つための

麻酔。


これやっても

ダメだからね。

痛いのは痛いんだ。



だからドナーに

なられた方、

尊敬します。


僕はもう二度と

髄液なんて

取られたくない。




キミはお見舞いに

きてくれた。

母がいる時だけなら

顔を出すこともあった。


母は初対面だったが

キミは前にも書いたように

すでに会っていた。



母は右半身麻痺だが

話し相手でいてくれたから

僕はよかった。


親父は

来なくてもいいのに

来ては

いつ退院するんだ?

と聞いて来た。


クソ親父

帰れ!と

僕は怒鳴った。


母も帰りたかったかも

しれない。

申し訳なかった。


そして親父は

母がいないのが

淋しかったんだろう。


母は帰っていった。




24日目、

やっと点滴が

取れた。


いうより

点滴が入らなくて

なってしまっただけで

病気が良くなって

外されたわけでは

なかった。


点滴から解放されて

僕はやっと

入浴の許可が出て

25日ぶりに

お風呂に入った。



年末がやってきた。

キミは僕を

連れて帰りたかった。

家賃の支払いが

あるから。


あの家は

振込じゃない。

集金だった。




僕は無理をして

先生の外泊許可の

条件に挑む。


目をつぶって

片足で立つ。


ふらついたら

外泊許可は出ない。


がんばって

ふらつきを抑えようと

するんだけど

先生には

わかっている。


ダメでも

家賃の支払いのため

帰らなきゃ。



外泊許可は

降りた。



僕はキミの車に乗って

家に帰った。


僕の家は僕の入院の

前とは変わらず

保たれていた。


掃除もされていた。

洗濯もちゃんと

やってあった。



ありがとう。

僕の家を守ってくれて。


でも僕は

まだ自分を保つのが

精一杯だった。


実は上手に

しゃべることが

できなくなっていたんだ。

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