第20話

僕は風邪をひく。

25歳の9月頃だったか。



普通は病院行って

薬をもらって

飲めば治る。


僕の風邪は

それでは治らなかった。


いろんな病院に

行ったが

どこも同じだった。


今から考えると

身体を休めれば

治る風邪だったと

思う。


身体を休められなかった。


僕には背負うものが

たくさんあった。




その頃には

実家の母は

糖尿病と高血圧の

合併症状からなる

脳梗塞で

右半身麻痺だった。


毎週水曜日、

実家に帰って

母を病院のリハビリに

連れて行っていた。


一日中母に

付いていてあげた。


毎週水曜日に

休みをもらっていて

実家は往復1時間。


水曜日は仕事は休みだが

休日ではなかった。



月に7回と半日

休みはあったが

4回は実家に。

残りは?


常に緊張に晒されて

やはり休日など

なかった。

キミの思う通りに

動けないと

無視されるから。




その頃には

犬がいたし

近所付き合いは

最悪だった。



僕が花壇にされた

猫のフンを

怒って

花壇から出したけど

飼っていた人の

駐車場の部分に

放った。


それがいけなかった。


自治会にも

入っていなくて

ゴミにも注意が

及ぶ。


漫画の雑誌を

捨てたのが

いけなかった。



犬のフンも

散歩中放置したのを

見られて

文句を言われた。



近所じゃ

厄介者だった。



家では全く休めていなかった。



職場では

国家資格が取れない僕は

下っぱだから

きつかった。


後輩3人

しっかり合格して

堂々としていた。


後輩に先を越され

先輩に言われた研究も

疎かにしていて

直属の先輩は

ルーズだったし

ストレスは

溜まる一方だった。



僕は職場でも

家でも

大変だったんだ。




風邪が治らないまま

12月に入る。


僕はとうとう

立っていられなくなった。

ウィルスが脳に

回ったんだ。



僕は職場の

病院に入院した。


先輩たちが心配して

お見舞いに来てくださった。

気を使うだけでも

吐き気がした。

完全に脳を

蝕まれていたんだ。



総轄主任の先輩が

忙しくて

やっとのこと

僕をお見舞いに

来てくださったが

その時点で僕は

面会謝絶になった。


その先輩、

ご立腹で

職場の全員に

緘口令を引いた。

あいつの見舞いは

禁止だ!と。


僕は職場でも孤立した。



キミは僕の車を

引き取りにきてくれた。

犬を連れて5キロ

歩いてきた。


僕はキミの居候先まで

歩いたからわかる。

5キロ歩くと

1時間以上はかかる。

犬を連れてだから

大変だ。


キミは

僕のいない家を

守ってくれた。

たまに僕の病室にも

会いにきてくれた。



僕はベッドの上で

誕生日を迎えた。

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