第10話

お気づきかも

しれない。

僕って言っているけど

僕は女性です。


このことを書くって

決めた時から

自分は「僕」が

しっくりくる。

と感じた。


彼を「キミ」に

したのは

対等ではなかった

僕たちの関係に

縛られたくなかったから。



お互いに

名前はわかってるが

呼びにくい。

親がつけた名前が

気に入らなかったと

思う。


ふたりとも

下の名前で

呼び合うことは

最後まで

なかった。



付き合って一年くらい

たった頃は

キミと僕は

にいちゃん。ねえちゃん。と

呼び合っていたね。


でも僕には

兄がいて

兄のことも

にいちゃん。と

言っていた。


それが気に入らなかった?

にいちゃんと呼ぶことを

禁じられた。



その頃からか

上下関係が

明らかになってきた。


キミは僕に

上様と呼べ。と

言いだした。


僕のことは

しんえもん。


一休さんだな。




生活は僕のお金で

やっていたし

炊事洗濯は

全部僕の仕事だった。


そりゃ僕の家だもの。

当たり前だ。


ニートだから

いわゆる僕のヒモ。

的な立場なくせに

威張っていた。


それでも僕は

キミにいてほしかった。


今の僕なら

出て行け!って

怒鳴るかもしれない。



寂しかったんだ。

一人でいるのが。





僕の実家は

大家族。

両親に兄弟5人。


僕は真ん中だった。

兄、姉、妹、弟の順で

真ん中三姉妹で

年子だった。


大家族で常に

両親は家にいた。

自営業だ。


といっても

お店ではない。

縫製だった。


今は外国から

安いものが入ってくるから

内職でも

少ないだろう。


親父は外注と

言っていたが

内職じゃないか!

って思っていた。


兄弟の中で姉以外は

家なんか継ぎたくなくて

別の職業についた。


兄なんて

縫製には未来がない!

と言っていたほど。



僕は初めは

自宅から通っていた。

片道30分。

当時はカセットテープで

A面B面、全部聴けた。



見通しが立たないと

僕は壊れる。

いつまでこうやって

通勤するのだ?と

疲れていた。


早番なのに

家を出るのが

遅くて焦っていた。


赤信号の点滅で

僕は事故を起こした。


相手は大人だから

うまい具合に

僕を悪者にした。


僕は箱入りで

世間知らずなんだ。

当然事故とは

何たるものかも

わからない。


車は廃車には

ならなかったが

僕は免停になった。

通勤はできない。


親父は

僕を職場に紹介して

くださった叔母の家に

僕を居候させてくれ。

と頼んだ。


3月で

歓送迎会など

午前様が多い時期。

おばさんは怒った。


僕が一人暮らしを

始めるきっかけだ。



職場の近くには

大学があった。

学生アパートが

たくさんある。


不動産屋の名前は

大学前不動産!

わかりやすい。


先輩もいろいろ

協力してくれたが

結局親が選んだ

学生アパートで

生活することになる。


お金がないから

じゅうたんとテレビと

布団くらいの

寂しい暮らしだった。



家族がたくさんの

生活から

当然一人になった。


自由に出かけられる

車もなくて

寂しいって言葉じゃ

片付かないほど

不便で窮屈な暮らしが

始まった。


一人暮らしに

明るい未来を

探し求めていた。



そんな頃

僕はキミと出会ったんだ。






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