第2話

キミは元気にしてるん

だろうか?


もう会って話すことも

ない、遠い存在。


顔も声もにおいも

もう思い出すことは

できない。

僕が覚えているのは

キミの存在だけ。


確かにその時代に

キミは僕の生活の大部分

だったんだ。


キミは言った。

あなたの20代は

私のものだよ。と。


そうなんだ。

僕らはずっとずっと

一緒だったんだ。





僕は少し変わった人間で

没頭すると周りのことを

気にすることなく

それをやり続けるクセが

あった。


なんとも幼稚なことで

恥ずかしいのだけど

ドライブ中に飲んだ

ジュースの紙コップで

遊んでいたことを

キミは呆れていたね。


紙コップを口の前に

持っていって

息を吸う。

コップが顔に吸い付く様が

楽しくて楽しくて。


なんと両手に紙コップを

持って交互に吸い付いては

落ちたら取り替えて吸い付いて。


どれだけの時間

やってたかわからないほど

夢中でやっていた。


そんな僕を

キミはどう思いながら

付き合ってくれてたのかな?

今だからそんなことを

考えるのだけど

あの頃の僕は

そんなことを考える余裕は

1ミリもなかった。




本題に入って一番に

そんな記憶が蘇るとは

滑稽だ。


キミにとって僕のことは

美しい記憶であってほしい。

と願いたいが

それは無理そうである。


キミは僕のことを

覚えていてくれるだろうか?

申し訳ないが僕は

冒頭で言った通り

存在だけでしかない。





春がくる。

春は花見に行ったね。

キミが教えてくれた

山の中の千本桜。


山越え谷越え

どこにあるんだ?

なんて言いながら

わくわく感が

たまらなかった。


急に出てきた桜は

ずっと奥まで

満開だった。



地図やナビを見れば

いつだってそこへは

行けるのかもしれない。

でも今そこに行っても

あの頃見た桜ではない。

キミもいない。


だから僕は

そこへは行かない。

キミとの大事な場所の

ひとつなんだ。




ほかにも

いろんな桜を

見に行ったね。


人混みの中進む

人気の桜の名所。

食べ歩きしたいけど

僕にはお金がなくて

ごめん。


グラウンドに

ポツンとひとつ

桜の木があって

その下で

お弁当を食べたね。



でもそれは

鮮明に覚えている訳で

ないんだ。

映像は伴わなくて

そんなこともあったなぁ

程度で。


キミは

忘れないよ。

と言ってくれたけど

本当にそうなのか?


聞いてみたい。

できるならば。



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