どうせ死ぬなら君に殺されたい

スミンズ

どうせ死ぬなら君に殺されたい

 余命1ヶ月となり、いよいよ僕には未来が無いようだった。そんなことで、最早感染症の危機なども考える時期ではなくなり、病室から自宅療養へ移ることが許可された。僕は自宅へ帰りたく仕方なかったので、妻の手助けを借りて自宅に帰った。


 延命処置も終わり、もう死を家で待つしか無くなった僕は一日中ベットの中からテレビを見たり、妻と話したりした。そんな日々はとても妻に申し訳無かった。そういうのも、僕らはまだ27歳なのだ。そんな時期に僕は末期癌になった。僕は絶望をしたが、彼女はとても辛く大変だろうと思った。


 だがそんな自宅療養も15日が過ぎ、いよいよ僕は辛くなってきた。もうじき妻と別れてしまう寂しさ、そして両親が僕の死を前に見舞いにも来てくれないという悔しさ。体の気だるさはそれに比べると軽かった。


 そんな辛さに僕は思わずこう呟いた。「いっそ君が僕を殺してくれ」と。


 すると彼女は「考えてみる」と返した。


 だから僕は慌てて言い返す。「それじゃあ君が殺人犯になるからだめだ」。


 「別に、私は構わないよ?」と彼女は笑っていた。


 その夜、僕は消された電気の下で眼をパチパチしていた。もうじき死ぬ。その感覚が何故か体で実感できた。それがやけに怖くて、震えていた。そんななか、突然部屋の電気がついた。するとベットの横には裸の妻が立っていた。


 「殺してあげる」そう言うと彼女は静かに僕のベットの上に上がると、僕の服やズボンを脱がして、仕舞いには下着も取っ払った。それは出来る限り僕に負担のかからぬよう優しく迅速だった。


 「君の裸を観るのは久し振りだ」


 「私だって、今まで待ってた。だけども、もう我慢することは無いよね?もし、これで君が死んじゃっても、君は私を恨む?」


 「……むしろ僕が罪悪感を覚えてしまうよ」


 「うん、!」


 すると彼女は静かに僕に重なった。


 「うっ」思わず声を出してしまった。久しぶりの快感に僕は早くも気持ちよくなった。


 「慌てないで。ゆっくりしよ」彼女はそう言うと


 「ご、ゴム無しなんて、初めて…」僕はそういって彼女をみる。赤くなった頬をして、甘い息を僕にかけてくる彼女は、艶やかであったが同時に切なそうな顔をしていた。


 彼女は無言で激しく動く。それは全て僕にダイレクトに伝わり、僕にはその動き一つ一つがと重かった。


 僕はその挙げ句、絶頂がきた。それはその時点での僕の体力を全て吐き出すことであった。気持ちよさに経験したことのない苦しさが混じった不思議な感覚が襲う。そしてその感覚の中で、僕は突然暗闇が目の前を覆っていくことに気がつく。それは決して部屋の電気が消された訳では無かった。


 死ぬんだ。僕。


 記憶が飛ぶ前。彼女の温かい体の感触と、悲しい雄叫びが聞こえた。

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