セッション

 劇場公開されている時、創作の先生にゴリ推しされた作品。


「観ているあいだじゅう腸が煮えくり返るようだった。これどう落とし前つけるんだと思っていたら、最後の十分でひっくり返された。脚本の勉強になるから、観ろ!」




 先生。


 あのカタルシスの出し方、小説だと無理ゲーじゃね??


 だってドラムの技巧ありき……いや、たしかに劇中無駄なシーン一個もなくて、めちゃくちゃに勉強になりましたけれども。主人公の追いつめ方えぐい。






 音楽学校に入りドラマーを目指す主人公。彼は憧れの教師に見初められ、上級生のバンドに入ります。口は悪いけれど、ところどころで人間味を出してくる鬼コーチ。心を許してしまいかける主人公の口の端の笑みがつらい。つらい。つらい。


 逃げて、いますぐ逃げて!


 そいつは悪魔よ!!!





 緊張感がやばい。


 練習シーンもなかなかのハラハラなんだけど、本番っぽい場で演奏するたびにこっちまでヒヤヒヤする。うわあ、怒られる! 椅子投げられる! 罵倒される! って身構えてしまう。ほんとにそうなるし。こわっ。


 たぶん私が日本語しか理解できないからまだよかった。英語がわかったらものすんごい不快な差別発言でもっと殴られてた。心えぐられてた。だって字幕足りてなかったもん。訳しきれてなかったもん。口が悪いなんてもんじゃないよ。


 そしてそれについていく主人公よ。



 ここまでくると、どう落とし前つけるんだと私も思った。


 鬼コーチに背を向けて欲しいけど、それすら敗北なんだもん。


 ドラムをやめて、人間性をとる。

 鬼コーチを許して、ついていく。


 どっちを選んでも敗北。


 こんな状態でラスト十分がやってくる。


 そして……ものすごい笑顔でエンドロールを迎える。




 すごいよ、このさじ加減。


 鬼コーチに死ねと言いながらすべてをたくす。こんな選び方ある?!


 さようなら、お父さん。


 ぼくは悪魔に魂を売りました。



 そんな映画。

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