第7話 出会いと始まり


 鳥の鳴き声。そして心地よい風に暖かな日差し。

 目を開けばそこに広がるのは西洋風の街並みだった。

 周りにはたくさんの人がいた。

 だが見慣れない人がいた。

「エ、エルフ?獣人?羽が生えてる?」


 そう。周りにいたのはただの人間だけではなく色んな種族がいたのだ。

 だが魁童は驚きはしない。いや驚けないのだ。

 感情がない魁童には驚きというものがなかったのだ。


 周りをよく見ると商売や馬車に乗った人、働いている人がいた。

 恐らくこの人達はこのゲームの会場フィールドの住人なのだろう。


 しばらくするとどこからかともなく大きなブザー音と振動が聞こえた。

 振動と音量から考えるにそれは......

「いつの間にか手に何か付いている」

 手には何かがはめられていたのだ。時計とは別種の何かが。

 ビビビイ。そう音が鳴るとモニターのようなものが映った。

「えーあ、あ、マイクテストーマイクテストー」

 その画面の向こうに映っていたのは先程大型モニターに映っていた人だった。

「皆様!無事に着きなによりでーす。ここからは自由行動となりますのであとは幸運を祈っております!」

 そう告げると画面の向こう側の人は、何を意味しているのかは分からないが不気味な笑で笑ったのだった。

「あ!補足として各街には石碑があり、そこで自分の恩恵ギフトを確かめられます!また、最初の所持金として1ヶ月分のお金は支給されているので!」

 そう言い残しモニターは消えた。

「とりあえずまずは石碑にでも行って確認しようか」

 だが魁童はその石碑の場所が分からなかった。

 コミュニケーション能力がなく、存在が薄いため誰にも聞けずただ歩いていた。

 次々と周りの人々は消えていき、残されたのは自分だけと思った。

 だがその時......

「あのー宜しければ石碑までご一緒しますか?」

 可憐で穏やかで清楚を象徴させるかのような長い黒髪の女の子が話しかけてきたのだった。

「あ、はい。お願いします」

 話しかけられたのは何年ぶりだったか。魁童は顔には出ていないが少し驚いていた。だが感情がないからこれを驚きというのか分からなかった。


 ただ彼女の後をつけていくだけ。お互い何も話さず何も見ず、ただひたすら歩くだけだった。

 彼女は急に止まると......

「あのー無言になってすいませんね。まだ名を名乗っていませんでしたね」

 彼女は優しくそして笑顔で語りかけてくる。

 そんな彼女の笑顔に何の感想も感情もない。

「私は金坂可憐かねさかかれんと言います。以後お見知りおきを」

 名は体を表すとはこのことだろうか。

 金のように美しく名前の可憐の通り彼女は可憐であった。

「僕は......紫神魁童しがみかいどうって言います」

「素敵なお名前ですね」

 彼女は嫌な顔せず常に笑顔を振りまく。

 そしてまた歩き出す。

「魁童さんはどこの出身なんですか?」

「僕は......どこにも住んでません。転々としていましたから。金坂......さんはどこ出身なんですか?」

「私は栃木です」

 こんな長く会話をしたのはいつぶりだろう。何故か彼女とは話せる。

 だがその先に感情は何一つない。

 ロボットのような受け答え。振る舞い。

(一体僕は......何のために生きている......のだろう)

 それからも彼女とは途中途中で話していた。

 そして石碑の前に着く。

「これが石碑見たいですね」

「そうみたいですね」

 周りに人はいなく僕達が最後のようだった。

「じゃ私から行ってみます」

「どうぞ。お気をつけて」

 彼女は石碑の前に立った。

 特に何も変わらずただ風の音と鳥の鳴き声だけがその場で聞こえていた。

「終わりましたよ」

 すると彼女は戻ってきた。何の変化もなく表情一つ乱れていなかった。

「じゃあ......僕行ってきますね」

「はい。ご武運を」

 そした魁童は石碑の前に立つ。


 後にこの恩恵ギフトが魁童を世界を壊し狂わすことをまだ支配人も当人も滝澤華恋も知らなかった。

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