第二話 女神で学園で貧乳で
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
「そんなに大きなため息をつかなくてもいいじゃないですか、それはあんまりと言えばあんまりですよ。流石の私も傷つきます」
異世界転生だけでも驚きだってのに、今度は女神様が学園の生徒でルームメイトと来やがった。
なんだよ、観察の必要はありませんってそういう意味かよ。
なーにがまた逢いましょうだ、再会が早すぎるにも程があるわ。
「お前どうしてこんなところにいるの?」
「私だって来たくて来たわけじゃないんですよ? トモアキをこの世界に送り込んだのが全能神のおっさんにバレちゃって、お前は神様失格じゃー! とかなんとか言って飛ばされたわけなんですよ」
「ほーん」
「んでー、この世界で貴方をサポートしろって言われてー。トモアキがこの学園祭で優勝したら帰ってきてもいいとか言ってきてー。そしたらこうなったわけなのですよ。あんだすたーん?」
「ふぁあ……あんだすたーん」
要は私情で神様的権利を使ったら神様の元締にブチ切れられたと、んでもって俺がんたらかんたら祭で優勝すればいいと。
あれっ、そう言えば。
「どうしてそんなリスクを負ってまで俺をこの世界に送り込んだん?」
「祈られたから……」
ルカは遠い目で呟いた。
「私ってば優秀だけど信仰は無いに等しいのですよ、だから数少ない信者すごく大切なの。我が子とすら思っているわ。そんな信者に祈られたのよ、助けてくれって。そんなことされたら───」
一息吸い、ルカは優しく微笑んで。
「───助けてあげたいじゃないですか」
「なるほど……」
正直びっくりした。
まさかそんな理由だったとは。
どうせ遊び半分だとか気まぐれだろうとか、そんなことを考えていた自分を恥じるくらいには胸を突かれた。
神様ってのは使いっ走りばかりに働かせて自分の身は切らないようなクズなイメージがあったが、人を助けたいだとかそんな理由で自分の身すら厭わない神様がいるだなんて。
いやぁ、こういうのダメだわ。
ほんとに。
「そんなこと聞いたらよ、やるしかねぇな。そのナンタラ祭、勝ってやろうぜ」
「いいんですか? 貴方には何もいいことありませんよ? 痛い目を見るかも知れませんし、もしかしたら死ぬかも」
人が死ぬ祭りってどうなのよ、なんてそんな馬鹿なことは聞かない。
俺はルカの心配を鼻で笑ってやる。
「はっ、俺にはお前から貰った、誰にも負けないものを持ってるからな。貰っといて何もしないのはクズ野郎のすることだ。俺はそんな奴には絶対になりたくない」
その日はそれで話は終わり。
お互いに入学初日ということもあったのか、ウトウトする頃はまだ夕食時前だった。
「おはよーございます、ルカです」
ふと声かけられて目が覚めたのは夜中の二時半、いわゆる丑三つ時だ。
「なんて時間に起こしてくれやがる、どうした? 怖い夢でも見たか?」
「あーその、トイレに行きたくて。ほ、ほら、この階にはトイレがないじゃないですか。なのでついて来て欲しいなと」
「子供か! 女神様ってば幽霊とか信じちゃう質でしたか! 高校生にもなって小っ恥ずかしいお嬢ちゃんですこと!」
「なっ! わ、私は元女神ですよ!? 幽霊とかガンガンに見えるんです! 今まで天使としか接したことがないのですよ! 怖いんです!」
さすがは腐っても元神様というだけあって、眼は特別製なのだろうか。
ま、いいか。
女の子に混んだけ頼まれて断るなんて男が廃るってもんだ。
それにだ、これに乗じて俺もトイレに行きたい。
実は言うと俺は怖がりだ。
「じゃ、行くか」
「マジですか! やったー!」
ルカは俺の言葉に手を挙げて喜ぶ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる彼女を見ていると、こちらもなんだか悪い気はしなかった。
「では……」
「おう」
俺たちは扉をそっと開き、そそくさと廊下を進んでいく。
この時間に廊下を立ち歩くのは禁止されていて、管理人さんに捕まると少しばっかし厄介なのだ。
なんでも食費を削られたり、毎日罰として掃除させられたりと雑用をやらされるらしい。
「「抜き足差し足忍び足……」」
小声で声を掛け合いながら、俺たちはなんとかトイレに辿りいた。
「よし。じゃあ、お互いにスッキリしたらトイレの壁を叩くこと」
「はい、わかりました……」
俺たちは拳を突き合わせ、互いの戦いに向かって歩み始めた。
◇
「ふぅ……スッキリした〜」
────コンコン
「おっ、キタキタ」
隣から響く小気味いい音に、俺は若干の安心感を覚えながら同じように壁を叩く。
共に合図を出し合ったらトイレ入口に集合。
俺は軽い足取りでトイレを出ようとし、その場で足を止めた。
なんか……いる……?
気がする程度であるが、空気が入口付近だけ妙に暗い。
摺り足で入口に近ずき、俺は息を飲んだ。
落ち武者が居た。
ハゲの鎧姿で顔がげっそりとした中年のおじさん。
幸いなことに、アイツは女子トイレを凝視している。
俺には全く見向きをしていない、これなら帰れる……!
なんて思っていたのに。
「トモアキ〜? 早く帰りましょ〜?」
空気を読めない馬鹿の一言で、落ち武者がこっちを向きやがった。
というかあいつはあれが見えないのだろうか、幽霊とかガンガン見えるとは何だったのか。
あ、いや、よく見たらあれは気付いてる顔だ。
知っててあいつ俺を呼びやがったな。
「トモアキ〜? トモアキー!? もう分かってるんですよねー? ねぇ!? 見えてますよねぇ!? 一緒なら怖くありませんから早く出てきてください! ねぇ早く! この方私のことめっちゃ見てくるんです! ねぇってば!」
あのクソ女神!
俺を嵌めようとか考えてねぇ!
あれ純粋に助けて欲しい叫びだわ!
「あーちくしょう! 出てやるよ行ってやるよ!」
俺はその瞬間、全力でトイレから飛び出した!
「ちょっ! その全力ダッシュは聞いてないですよ!」
「うるせー黙れ! 逃げる時は全力ダッシュ! 学校で習わなかったか!?」
「私ってば今日初めて学校に来たのだけど!?」
「知るか!」
「そんなっ!」
全力で走る俺たちの後ろから、ガチャガチャと音を立てて落ち武者が同じく全力ダッシュして来ていた。
俺たちよりも落ち武者の方が足が若干速い、ゆっくりと追いつかれているのがわかる。
「おい! ルカ! 二手に分かれるぞ!」
「それってどっちかが死ぬやつですよね!?」
「んなもん分かってらぁ! どっちに行っても怨みっこなし! いいな!」
「このままじゃどうせジリ貧です! わかりました!では次の階段で上にトモアキが! 私が下で!」
ルカは観念したように笑う。
「いいのか!? 下じゃ遠回りになるが!」
「いいんですよ! 怨みっこなしですからね! それにです、これに付き合わせたのは私ですから! このくらいのリスクは被りましょう!」
やばい!
今ここだけ見たら本当に女神に見えてきた!
そんなこんなしてるうちに件の階段に差し掛かった。
俺は上へ、ルカは下へ。
互いに別れた、その時。
「上に! 上に行きなさい落ち武者よ! そこには神気を纏った活きのいい青年がいます! さぁ! 私なんて神聖なものではなく! 彼を狙うのです!」
あの野郎裏切りやがった!
チラリと後ろを見ると、そこには先程の落ち武者はおらず。
奴の代わりに、下の階からルカの叫び声が上の階まで響いてきた。
その後、俺は何事もなかったように自室に帰ることが出来た。
明け方、涙で目元を腫らしたルカが管理人さんに連れられて部屋に戻ってきたのは良かったのだが。
俺たちは入学初日から食費を削られてしまうのだった。
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