第三話 能力診断で
「はぁ、昨日は散々な目に遭いましたよ。食費は削られますし……とほほ」
「とほほはこっちのセリフだわ。お前と同じの部屋ってだけで俺の分の食費も削られたんだぞ、ふざけんなや」
朝のHR《ホームルーム》が終わった頃。
ルカがため息をつきながら机に突っ伏した。
ルームメイトの責任は連帯責任、そんな理由で俺たち二人は支給される食費が三割ほど削られてしまったのだ。
「おら、立ちやがれ。一時間目から七時間目まで校庭で実技テストがあるんだってよ」
「マジっすかぁ……サボりません?」
「また悪さしたとか言われて罰を食らうだけだぞ。それがなくても俺は入学式のせいで目を付けられてんだ。サボりとかありえねぇよ。ほれ、行くぞ」
「えぇぇぇ……」
心底嫌そうな顔のルカを無理矢理引きずって、俺は校庭へと向かう
まったく、昨日俺の胸を打った神様は何処に行ったのやら。
初めての授業をサボタージュなんて、この神様は何を考えているのか。
今なんてブーブー言いながら俺に引きずられたりしていて、こいつのことはいまいちわからんわい。
そんなことを思っていると、あっという間に校庭に着いた。
校庭にはすでに他のクラスメートたちも集まっていて、俺達が最後のようだ。
「よーし、集まったなー。ではこれから、お前らの潜在能力を測るぞー」
『潜在能力を図る?』
『いやいや、図るじゃなくて測るな?』
『どうやってやるんですかー』
生徒達がザワザワと湧く、勿論俺もその中の一人だ。
来たよ来ちゃったよ来ちゃいましたよ、ここで俺の異能力とハンパねぇ潜在能力が分かっちゃうパティーンな。
伊達にゲーマーじゃねぇぞ。
何かを救う宿命なやつは、そういう何かすごいものを持ってたりするんだよ。
「では、入学初日から問題行動を起こした
はい来たー。
ここもあるあるよなー。
初日から問題起こした主人公が先生に呼ばれる展開、まさにテンプレ。
もしや俺はテンプレを歩んでいけるのでは?
この学園を救う王道を歩む男ってな!
「よし、来たな。じゃあ、このカードの上にお前の魔力を注げ。そうすればこのカードにお前現在の力量と能力が表示されるから」
よーし、やってやるぞー……えっ?
「あ、あの、魔力ってなんすか?」
「はぁ? 魔力は魔力だよ。お前だって見習いと言えど魔導士なんだからそんなこと分かってるだろ?」
「すいません、何言ってるかちょっと分からないです」
「なるほど、ワーストの一人だけはあるな。まさか何も知らないとは……」
おう、こちとら何も言われないまま学園救えって頼まれてここに居るんだわ。
呆れるのであれば、あの何も教えてくれなかったクソ女神に呆れてほしい。
後ろでニヤニヤと笑う元凶に、俺は言いようのない殺意が沸いてくるのがわかった。
……後でぶん殴ってやろう。
「いいか、魔力ってのはお前の精神エネルギーそのものだ。魔力によってランク付けされるのはわかるな?」
「はぁ……?」
イマイチ容量の掴めない俺を見て先生は、未だにニヤニヤと笑いを堪えているるかを指差し。
「例えばだ。学年主席であり現状1年の中で一番魔力量が多く、その性質も高く評価されているルカはAランクだが、学年の末席を埋めるワースト10の一人であるお前は魔力の質、量共にFランクに分類される。わかったか?」
「えぇ、まぁなんとなく」
「おう、それでいい。魔導はセンスだからな。じゃあ実践的な話に行こう。魔力を注げと俺は言ったな? それは文字通り自分の中のエネルギー注ぐんだ」
また分からなくなった。
エネルギーを注ぐ? オーラ的な?
俺そんなもの全く見えないんですけど。
「先生。まず俺、魔力が見えません」
「根本的な話だったか! って、お前魔力が身体から一切出てないぞ。もしや幼児期にリミットブレイクを受けていないのか?」
「リミットブレイクってなんすか。俺そんなの聞いたこともないんすけど」
「しょうがねぇな……ほれ、手を出せ」
俺は言われた通りに手を出す、すると先生は俺の手を力強く掴んだ。
その瞬間、全身から蒸気のようなものが吹き出し始めて……えっ?
「 はっ!? いやなにこれっ!?」
「おっ、見えるか。それがお前の魔力だよ、早く全身の
「んなこと言われましてもね!?」
そういや段々と身体から力が抜けてきてるような、これヤバイんじゃね!?
「はい深呼吸してー、吸ってー吐いてー」
「ふぅ……はぁ……ふぅ……はぁ……」
言われるがままに深呼吸を繰り返していると、ゆっくりとだが全身から溢れ出る蒸気のようなものを感じ取れるようになってくる。
最後には身体の周りだけに抑えられるようになってしまった。
なんだこの先生! 凄腕のカウンセラーかなんかか!?
「ほい、その感覚を忘れるなよ。これからの訓練に魔力は必要不可欠だからな。じゃ、潜在能力を見るとするか」
その言葉に俺は静かに頷くと、目の前に差し出されたカードに魔力を注いでいく。
「うおっ、眩しっ!」
ある程度魔力を注いだと思ったら、カードは突然白く光り出した。
目を凝らして見てみると、カードには俺の名前とその下にステータスのようなものが刻まれていくのがわかる。
「ほーん、やっぱりお前はワースト10の一人だわ」
そう言って俺にカードを渡す先生。
先生の言葉に一抹の不安を覚えながら、俺は期待に目を輝かせてカードを見た。
『 1ー7 Fランク 田中智昭
魔力量 F
魔力の性質 【身体強化・魔力付加】
魔力属性 【無属性】
以上のことからこの者をFランクとする』
え、これだけ?
なんかこう、スーパーウルトラハイパーミラクティカルな異能は?
もしかして、何も無い?
身体能力を弄る異能はどうした?
もしやあれか、身体強化がその異能だとでも言うのか?
「思ってたのとちがーう!!」
「うるさいぞ、Fランク。んじゃあ次、ルカ・メロディアス! Fランクとの違いを見せてやれ!」
「はーい!」
先程までのブーたれ女神は何処かへ。
まるで優等生のように快活な返事をする美少女なルカは、俺を押し退けて先生の前へと歩いていく。
猫被っちゃってるよアイツ。
あ、こっち向いてニヤッてしやがったっ!
寮に帰ったら覚えとけよクソ女神……。
『おおおおおおおおお!?』
『おいおいなんだよそれっ!』
「流石はAランクだ! 天才とはまさにお前にふさわしい言葉だろう! 先生勝てないかも!」
俺の前でわっと歓声が上がる。
どれもこれもがルカを褒め称える言葉ばかりだ。
そのひとつひとつに対して、ルカは微笑で返す
まさに優等生、腐っても元女神ってところだ。
「ふふ、褒められちゃいました。トモアキも私のことを褒めてくれてもいいのよ?」
「うっさい、俺はまだお前の能力見てねぇから。さっさと見せろし」
俺は半ば強引にルカのカードを引ったくり、そして驚愕した。
『1ー7 Aランク ルカ・メロディアス
魔力量 A
魔力の性質 【天の羽衣・魔力増強・支配者(弱)・魔法強化・武具神の祝福】
魔法属性 【神聖属性】
以上のことからこの者をAランクとする』
何このチートのバーゲンセール。
連なる単語ひとつ取ってもやばさしか感じないとか、なにこれどうなってんの。
神剣ってなんだよ、俺なんてただの刀なんですけど。
極めつけに武具神の祝福って。
神の祝福って俺にあるんじゃなかったっけ?
こいつが神様を辞めさせられたから祝福消えたとか?
「というかさ、こういうのって俺に起こるイベントなんじゃねぇのぉぉぉぉぉぉ!?」
『うるせーぞFランク!』
『黙れワースト!』
『無個性野郎はすっこんでろ!』
「チクショウ!」
こうして、俺の最低最悪な学園生活の幕が開けたのだった。
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