プロローグ───その2


 女神を名乗る女性の話を聞いた俺は、何が何だか分からないまま話の続きを聞くことになった。


「すっごく簡単に言うとですね、貴方には異世界に転生してもらって、転生先で学園に入学していただきます。んでもってそこでなにか学園に有益な実績を残してほしいのですよ」


「まぁ、わかった」


「理解の速い人は嫌いじゃありませんよ」


 ふーむ、異世界転生か。

 異世界転生ねぇ、高校の時にクラスの何人かが異世界転生したくて集団自殺したっけ。

 そんときは馬鹿な話だと思ったが、いざ自分が直面するとなんともいえないものだ。


「質問なんだけど、異世界転生したら俺な体ってどうなるの?」


「……? 別に何も変わりませんよ? 人形のまま転生していただきます。あっ、学生になっていただくので少しだけ歳を巻き戻しますけど、そこはご勘弁を」


「じゃあ次、俺が学園に入ってどうにかなると思ってる?」


「いいえ? まったく思ってませんよ?」


 きっぱり言いやがったよこの女。

 まぁたしかに、俺の身体能力はお世辞にも良いとは言えない。

 てか、思ってないのならどうしてコイツは俺を入学させようと?


「思ってはいませんが。私が貴方にちょちょいと小細工をすれば期待はできます」


「小細工? 俺を強くしてくれたりするのか?」


「えぇ、まぁある程度には強くですよ」


「だよねー、やっぱり強くなんか────えっ、マジで?」


「あったりまえじゃないですか。在り来りな言葉でいえば神様の祝福ってやつです。貴方にひとつだけ、他人には無い何かを差し上げましょう」


 平々凡々で長所なんて特になし、人に誇れることと言えばどんな人間とも付き合っていけるだけのコミュ力だけのこの俺に神様の祝福?

 こんなことってあるかよ、最高じゃん。


「さぁ、選びなさい! 何者にも負けない力を掴み取るのです!」


 そう言って女神は分厚い紙の束を手渡してくる。

 パラパラと捲ってみれば、装備だったり異能力だったりと紙一枚一枚に力の内容が記述されていた。

 なるほど。

 となれば話は早い。


 ここは異能力系を選ぶべきか。

 いや、チートな装備にしてみるか。

 いやいや、チラっとだけ魔法なんてものもあったし。

 いやいやいや、あえて身体能力をガン上げするのもありか。


 ……よし、決めた。


「俺の身体能力の全てを自分で弄れるようにしてくれ」


「あれま、そんな普通のものでいいのですか? もっとすごいものがあったでしょう? 聖剣だったり宝具だったりとか、神器なんてものもあったはずですけれど。なぜそんな能力を?」


「なんでって言われてもなぁ、俺は最初から最強で無双するなんてことはしたくないんだよ。成長を楽しみたいんだ。その世界なら俺は成長できる気がするんだよ。俺のつまらない人生を自分で変えたいんだ」


「ふぅん……? まぁ、いいです。もう能力は魂に埋め込みましたので旅立ちの準備に取り掛かりましょう」


 えっ、能力付与の儀式無しかよ。

 割と楽しみにしてたのに残念だわ。


「あ、じゃあもう能力使えるんですか?」


「いいえ、まだですけど。この部屋で使われると困るので」


「あ、さいですか」


「さて、早速転生してもらうのですが。転生する前にいくつか注意点を」


 言いながら、女神は何やら光の模様を宙に描き始めた。

 すげぇなおい、魔法陣ってやつかよ。

 流石、神様を名乗るだけはある。

 というか、いよいよ現実味が湧いてきたな。

 さっきまではまだ夢かと思っていたけれど、こうも目の前で進んでいくと途端に怖くなってくる。

 いや、こんなこと言ったら夢オチの常套パターンじゃないか。

 考えないようにしとこ。


「まずひとつ、あちらの世界で死んだら今度こそ本当に死にますのでご注意ください」


 まぁ、そりゃ当たり前な話だわな。

 今回だってきっと特例なのだろう。

 それが何度も続くとかありえないよね、ちょっと期待してたけどまぁいいわ。


「ふたつ、入学していただく学園は力が全てです。努努ゆめゆめ忘れぬように」


 力が全て、ね……。

 喧嘩でもするのか?

 それとも学園間で戦争したり?

 そう言えばなにか実績を残してほしいとは言われたが、何をどうするとかは全く聞かされてないな。

 あっちに行けば嫌でも分かるということなのだろうから、あえては聞かないが。


「最後に、私は貴方に期待しています。その期待を裏切らないでくださいね」


「精々がんばりますよ。気になるならここで俺の生活でも観察してたら?」


「その必要はございません」


「あらそう」


 寂しいこと言ってくれるわ、期待してるなら俺のことをずっと見てろっての。

 いや、年がら年中見られるのは嫌だな。

 うん、別に寂しくなかったわ。


「ではでは、もうそろそろお別れのお時間です。また会いましょうね、最上敦さいじょうあつしさん」


 微笑む女神にお別れを告げようとしたその時、突然俺の思考はガクッとブラックアウトする。


「お元気で────」


 最後に聞こえたのはそんな女神の声だった。

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