case 2
運命の出会い。
女の子なら誰もが1度は夢見るものではないだろうか。かくいう私、田島彩音もその夢見る少女の一人である。
ごめんなさい。ちょっとだけ嘘つきました。少女じゃないんです。もう28歳なんです。ホントすみません。
田舎から就職で憧れの東京に出てきて数年。女子高生の頃描いてた未来予想図とはかなり違うけどそれなりに楽しく過ごしている。ただし運命の人にはまだ出会えていない。
結婚できない理由を冗談めかして運命の悪戯と言うにも少々キツイお年頃になってしまったのだが、実際運命の人が現れないのだから仕方がないのだ。
同世代では結婚どころか子供までいてもおかしくない年齢だろう。
最近では実家に帰ると母から結婚の催促が半端ない。幼馴染みが漏れなく結婚してしまったことが要因だろう。ここ数年そのプレッシャーにさらに磨きがかかっている。その辺のチンピラなんかよりも余程恐いもんだ。
それにしても私はどうして売れ残ってしまったのだろうか…
昔からそれなりにモテていたのだが、この人だ!と本気で好きになれた人はいなかった。なんとなく付き合い自然消滅を繰り返す。そしていつの間にか無味乾燥した生活が続く…
一体どこで間違ったのか見当もつかないが問題は私にもあるのだろう。それを直さない限り神様は私に運命の出会いを与える気はないのか、それとも単純にまだその出会いが先なのか、そもそも運命なんてものが存在しないのか…
考えても答えのでない問題は放棄して会社に向かうための準備を始めた。
駅まではいつも徒歩だ。自転車もあるのだが私は歩くのが好きなので急いでない限り駅までは徒歩を選択する。歩いて10分程度なので丁度よい運動だと思っている。それに自転車だと出会い頭にぶつかったときに大ケガをさせてしまう可能性もある。なんて打算的な考えも少しはあったりなかったり。等と考えていると信号が赤に変わる。
前を歩くスーツを着た男性が横断歩道の前で信号を待つために立ち止まる。
身長は私と同じくらいで少し低い。髪は短髪で少しツンツンしている。あまり容姿を気にしないのか後ろに寝癖がしっかりとついていた。顔は後ろからだとわからない。
暇をもて余すと異性の特徴を分析してしまう癖がついている。今の状態ではこの程度しかわからないなと思っていると彼は私の存在に気付いていないのか鼻歌を口ずさみ始めた。
その小気味いいメロディーとホッとするような安心する声音が耳をくすぐる。なんだっけこの曲?お母さんがよく聴いてたやつだ。目をつむり必死に曲に集中する。もっとしっかりと聴きたいと思い一歩近づくと鼻歌が終わってしまった。
彼が私に気づいたようで耳が真っ赤になっていた。そんな恥ずかしがらなくても大丈夫よ。私は貴方の味方よと心の中で慰めていると
「あ、あの。聞きました?」
と少し顔をこちらに向け声をかけられたので、親指をたて称賛を送り
「聴きました!」
と答えた。折角なのでついでに質問もしてみた。
「なんって曲でしたっけさっき歌ってたやつ?」
彼は少し驚いたようだったが、笑って教えてくれた。
「ミスチルのAnyって曲です。いい曲なんですよ特に歌詞が。」
振り返った少年は(年齢は知らないが学生服を着ていれば学生に見える程幼く見えた)美少年だった。
彩音のハートに矢がささる。
途端にうまく話せなくなってしまった。
「あの。大丈夫ですか?」
フリーズした彩音に心配そうに声をかける少年。
「え?あ、いえ!だ、大丈夫です!何でしたっけ?」
「聞いてなかったんですか?(笑)ミスチルのAnyですよ。」
再び少年が笑う。2本目の矢がハートを射抜いた。
もう…ダメだ…。
「大丈夫ですか?あ!信号がまた変わっちゃう!ほら、早く行きましょう!」
頬を紅潮させ突っ立ったままの彩音の腕を引き少年が歩みを促す。
「あ!ご、ごめんなさい!」
田島彩音、齢28にして初恋を知る。
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