15 学校廃止

 2010年代後半から始まったネット授業が2020年代から本格的に普及し、座学系の教室の閉鎖が相次ぎ、教室といえばフィジカル系のスポーツや芸能、技術の教室を意味するようになった。

 2030年には新学校制度が閣議決定されて小中高校の廃止が決定し、小中高一貫の一般学校(ジェネラルスクール)に統合されることになった。一般学校には校舎や校庭はない。授業も試験もネットで行われる。フィジカル系(実技系)の科目の授業は、任意のジムやクラブで受ける。義務教育期間は旧幼稚園から旧高校の就学年齢(満4~18歳になる歳)に延長され、その間のネット授業料は無料である。ジムやクラブの授業料は全額助成される。

 ネット授業はAI教師によるカップリング(マンツーマン)方式が基本であり、授業内容によってグループ方式でも行われる。

 フィジカル系科目の授業も3D画像やホログラムを用いたヴァーチャル教師によるヴァーチャル授業が基本である。リアル教師の授業も選択できるが、高価なため助成金の対象外となる。リアル教師の授業はオリンピックやバレーコンクール等を目指す英才教育に限られる。中途半端なリアル教師よりヴァーチャル教師のほうが優秀であることが実証されている。

 旧制度の学校で生き残ったのは大学と専門学校だけである。旧制度では専門学校や専修学校などが大学を名称として標榜することが禁止されていたため、大学校を名乗ることもあった。新制度では大学の名称の使用が自由化され、塾が大学を標榜することもできるようになった。また大学を差別化していた私学助成金が廃止された。2000年代に民営化された国公立大学への交付金が廃止され、経営基盤が完全民営化されるとともに、国公立の名称使用もできなくなった。文部科学省の権益の源泉だった大学設置の認可制が廃止され、許可制(準則主義)になった。これによって大学と専門学校の差別、私大と国公立大の差別は完全になくなった。

 専門学校や熟が小中高のフィジカル系科目の担い手となり、活況を呈する一方、大学は私学助成金や学校交付金を失って経営難に陥った。学生数も減り、中途半端な大学は実質的に専門学校に転換して旧小中高生の受け入れを始めた。旧国大や一部の有名私大は真の意味で高等教育機関としての使命に回帰して差別化による生き残りを図った。廃止された助成金や交付金の代わりに少数精鋭の奨学金が充実したので、優秀な大学生にとってはむしろ好都合になった。勉強する気がない名ばかりの大学生がいなくなって風俗店は人不足に陥った。

 小中高の廃止と大学の改革によって、文部科学省と地方自治体の教育予算は大幅に削減された。教員の大量解雇に最後まで抵抗した日教組は、自身が解体される憂き目にあうことになった。だがそれ以前からネット授業の普及によって座学系教師は減っていたし、フィジカル系教師は専門学校に移って待遇もよくなった。

 学校廃止後、ヤミ学校が流行っている。旧学校のように校舎と校庭があり、教室で先生が授業を行う学校である。ヤミ学校は違法ではない。学校は廃止されたとはいえ、禁止されたわけではない。学校によるリアルな授業がネット授業より優れているという考えは根強く残っている。しかし実際にヤミ学校の教室を覗いてみると、生徒はネット授業で自習している時間が長く、授業があっても教師はホログラムである。ヤミ学校の教室はカフェと同じように勉強する場所を提供しているにすぎない。唯一の違いは学校にはクラスとタイムテーブルがあることで、メンバーも科目も自由に選べない。これを馴化(社会順応教育)といえばそれまでである。しかし社会人になったところで、今では多くの仕事はタイムテーブルのないフレックスタイムであり、オフィスのないテレワークであるから、こんな社会順応には意味がなくなっている。それでも学校有用論者には、クラスとタイムテーブルにそれ以上の意味があるという。

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