14 交通革命
2038年の日本を代表する交通機関は、全国に張り巡らされた亜真空リニア新幹線網である。マッハ0.9で走行する亜真空リニア新幹線の整備によって国内航空路線は沖縄便や離島便を除いて必要がなくなった。亜音速にスピードを制限しているのは、空気流入事故時の衝撃波によって車両が破壊されるのを防ぐための安全措置であり、構造的には超真空でも走行できるように設計されている。超真空による超音速走行実験では、なんらの問題も認められていらず、早晩超音速の運用が開始される見込みである。亜音速運行では東京大阪間1時間、超音速運行では30分となる。
在来鉄道路線や地下鉄の大半が廃線となった。山手線や大阪環状線も例外ではない。鉄道に代わる都市交通の主流はオンデマンドオートマチックモビール(ODAM)である。これは人一人が立ち居することができる小さな円盤状の浮遊モビールであり、未使用時はコンパクト化して都市を風のように流れており、使いたいと思ったときに飛来して拡張し、行きたい場所へと自動的に届けてくれる。複数人で使うときは自動隊列化する。恋人同士ならランデブーもできる。通勤や通学にもODAMが使われており、混雑しても渋滞や衝突が生じないルートが自動設定される。
移動速度は時速72キロである。秒速20メートルということになる。山手線を30分で一周できるスピードであり、渋谷から上野へ15分で行ける。つまり在来線や地下鉄があった時代の2倍の移動速度になる。
ODAMは非接触エネルギーベルト(NCEV)からエネルギーの供給を受ける。浮遊高はNCEVから50センチまでである。それ以上は無軌道浮遊となる。緊急事態を回避するため30秒間の無軌道浮遊が可能である。NCEVがありさえすれば、道路だけではなく、屋内でも使用できる。ODAMに乗ったまま仕事のデスクまで行ったり、ウィンドウショッピングをしたり、公園や遊園地を巡ったりすることもできる。
ODAMを使ったレースやゲームが多数開発されている。一番人気はエネルギーコートを使うODAMサッカー、二番人気はODAMエアーというジャンプ競技である。スプリントレースやマススタートレースでは、ODAMのスピードリミッターが外され、ブースターが付加される。最高速度は秒速30メートル以上(時速100キロ以上)で、動物界最速のチーターと同等である。
亜真空リニア新幹線を使用するまでには及ばない近接都市間交通はカプセルモノチューブ網が構築されている。これはエアカプセル式交通機関であり、1人乗り、2人乗り、4人乗りのカプセルを空気力で目的地まで搬送する。最高速度は時速200キロである。チューブは地下に敷設されていて景色は見えないが、360度のヴァーチャルパノラマビューを楽しむ機能もある。
このほかの交通機関としては、メディカルロボットを装備したドローンアンバサダーが救急搬送を担っている。全国どこでも5分以内に到着して救命措置を行い、5分以内に救急病院に収容することができる。ドローンは2010年代後半から宅配物流用の普及が本格化し、2020年代後半には人を乗せた遊覧用ドローンも人気となっている。
電気自動車と電動アシスト自転車はODAMが使えない田舎の交通手段として根強い人気が続いている。いずれも2010年代から普及している交通手段である。2030年代には電気自動車の完全自動運転化が実現した。また電動アシスト自転車も衝突回避装置が2025年から義務化され、半自動運転機能が必須となっている。ODAMが普及した都市では電気自動車や電動アシスト自転車の乗り入れが禁止されているため、あえて田舎に住む人もいる。
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