贈り物

 ちょうど昼前にアパートに到着した。

 ユノは笑顔でじゅんを迎えたが、テトが一緒でないことに気づいてあからさまに残念そうな顔になった。ちょっと傷つく。

 既に霊酒ミードを飲んだテトは別行動を取っている。周辺調査と下準備、そして移動手段の確保をテトに頼み、巡は清明セイメイと打ち合わせを行う。


「巡ちゃんも旅行いくの?」

 寝室で二人で一緒に手芸本を眺めていたとき、ふとユノが巡を見て言った。

「私は行かないわ」

 巡は首をふる。

「今日はアナタたちのお見送りにきたの」

「そっかー」

 とユノは折りたたみテーブルの上でパタパタと手を踊らせた。

「ユノねえ、いつ帰ってくるかわからないんだあ。だってねだってね、セイちゃんがユノの行きたいところに全部連れて行ってくれるの。ユノはピラミッドにも行きたいでしょ、ジャングルにも行きたいし、あとねえあとねえ、グランドキャニオンも見てえ、南極でペンギンさんと写真を取るんだあ」

「そうね……清明くんなら全部連れて行ってくれるわよ、きっと」

「うん……」

 とユノは頷いたきり、思いつめたように黙り込んだ。

「どうしたの?」

 巡がその顔をのぞき込むと、ユノは決心したように立ち上がり、リビングに向かった。手芸品を飾っている棚の前でしゃがみ、下の方にある扉を開けてゴソゴソやっている。

 再び寝室に戻ってきたユノの手には、釣具などを入れるような安っぽいプラスチック製の工具ボックスが一つ。

 大事そうに抱えたそれを机に下ろし、半透明のバックルを外して蓋を開く。

「わ、すごい」

 巡は感嘆の声をもらした。三段に分けられたボックスの中には色とりどりのビーズ作品が綺麗に収められていて、目にも鮮やかなそれはまさに宝石としか言い様がないと思う。

「好きなのあげる」とユノは少し淋しげな顔で言った。

「いいの?」

「うん……友達のしるしだから」

「そっか、ありがとね」と笑った巡だが、すぐに口をへの字に曲げた。「……うーん。そうはいっても、どれもが素晴らしくて悩むわね。……ねえ、私じゃ決められないから、アナタはどれがいいと思う? 私、ユノさんに選んで欲しいな」

「……じゃあ、これ」

 とユノはブレスレットを取り出した。アースカラーの落ち着いた色合い。うるさくないほどに凝った編み方をしていて、普段使いにも馴染みそうだ。巡は一発で気に入った。差し出した腕に巻いてもらうと、硬質な冷たさ感じる。ガラス製らしい。

「ありがとう。大事にするわ」

 ユノはもうひとつ、大きめのものを取り出した。

「これはテトの」

 首輪だった。

「ありがとう。テトはこういうの好きだから喜ぶと思うわ。すごくすごく、喜ぶと思う」

「ねえ巡ちゃん」

「なあに」

 と巡はユノの瞳を覗きこむ。その奥に揺れる昏い不安の色を見た巡の脳裏にふと、この子はこれから起こることを知っているのだはないかという考えがよぎる。

「ユノとセイちゃんのこと、忘れないでね」

「大丈夫」

 巡は頷く。

「忘れるわけないじゃない。帰ってきたら、また遊びましょう」

 約束は、できなかった。

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