ミーティング
翌日、
まだ約束の時間には早いが、一応確認しておこうと思い立ち、裏の駐車場を覗いてみた。
「巡ったら遅いよう」
ファミリーバンの上から声が降ってきた。
「あ、こら、ちょっとテト、人サマの車に上がったらダメでしょ。降りなさい。足跡ついちゃう」
「この世界でも巡は小煩いなあ」
ぶつぶつ言いながら、テトは車のルーフから飛び降りた。
「あなたが大雑把すぎるの。それにまだ約束の時間前なんだし、全然遅くなんかない」
時間感覚を取り戻すために身につけていた腕時計に視線を落として言った。
「昨日はあれから大変だったんだよ。巡がくれたゴハンのせいで……」
「美味しくなかった?」
「凄く美味しかった。だけどその匂いを嗅ぎつけた奴らがわんさか集まってきて、あれよという間に大乱闘の始まりさ。さすがの僕でも多勢に無勢、とはいえ一口二口かじっただけのご馳走をみすみす呉れてやるのも業腹だし、食いかけの袋を咥えながら追いすがる有象無象どもをバッタバッタと蹴散らし逃走すること実に五時間。どうにかゴハンは守り切ったけど、食べたぶん以上に体力を使ってもうへろへろ」
「ご苦労様」
巡はテトの頭を撫でる。多少の誇張はあるかも知れないが、テトの話は事実のようだ。目立った怪我こそ無いものの、綿菓子のようだった毛並みはすっかり土色に汚れ、蜘蛛の巣のようなものがところどころに絡みつき、脚の毛には乾いた泥がこびりついている。
「とりあえず身体を綺麗にしなきゃね。話はそれから、ご飯食べながらで」
「そうしてもらえると助かるよ」
そう言ってテトは巡の脛に頭を擦り付けた。
二人は並んでマンションに入っていった。本当はデイパックの中に隠していきたいところだが、汚れきったテトを入れたくなかったし、誰かに見つかったところで大して問題になるわけでもないのでいいか、と思う。
玄関でテトの足を拭き、風呂場に直行させる。巡は部屋着に着替え、風呂桶に溜めた湯でテトの身体を洗ってやる。
「痒いところはありませんかー」
「ウムー、苦しゅうないぞよー」
どんなコンテストでも優勝確実と思えるほどの美しさを取り戻したテトをリビングで待たせて、巡は食事の支度にとりかかる。といっても帰りしなに買ってきたささみを軽くボイルしてたたきのようにするだけなので、手間はかからない。氷水に浸して熱を取り、食べやすくスライスして皿に盛り付ける。自分は紅茶とクッキーにする。
「このソファとテーブル、あちら側で使ってるのと同じだね」
「前の家から持ってきたものだから――」と応えてテーブルに皿を置く。「はいどうぞ」
ようやく一段落ついた。
「さて、まずはどこから話そうかしら」
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