猫餌

 街の外れにある分譲マンションがじゅんの自宅である。

 だるいつかれためんどくさい、と文句を垂れるテトを腹に抱えたデイパックに入れて、マンションにたどり着く頃にはすっかり夜になっていた。


「じゃあ、今日のところはここで別れましょう」

 巡は裏手の駐車場に回って、デイパックを下ろした。

「どうしてさ」

「ウチはペット禁止なの」

「僕はペットじゃないよ!」

「はいはいそうね」と憤慨するテトを軽くいなして、「ともかく、この世界の私にも生活ってものがあるのよ。我慢して頂戴。それと――はい、これ」

「なにこれ」


 猫の餌である。


「ごはん。スーパーに寄った時に買ったの。あなただってモノを食べなきゃ動けないでしょ。だからこれ、お腹がすいたら食べなさい」

「あのさ、僕、こんなんなんだけど」

 と言ってテトは桃色の肉球を巡に見せ、爪を出し入れしてみせる。

「レトルトパウチだし、頑張ればいけるいける。開け方はなんとか自分で工夫して。ああ、袋は食べちゃダメだからね」

 テトは『国産ささみとしらすのとろうまジューシーゼリー仕立て~三ツ星シェフのプレミアムディナー~』と書かれたパッケージを前足で突っついて、

「相棒の扱いがひどいなあ」

「いちばん美味しそうなやつ買ったんだからそれで許してよ。こっちだって四六時中あなたの世話をしてられるわけじゃないし、お互い頑張りましょうってことで」

 テトは諦めたような鼻息を吐いて、

「わかったよ」

「よし、じゃあ私は明日も学校があるから、そうねえ……明日の午後五時にこの場所で落ちあいましょう」

「おっけー。じゃあ、また明日ねえ」

「そこら辺の野良猫と喧嘩しちゃダメよ」

「しないよ喧嘩なんて。あんな野蛮な奴らの相手は、二度とゴメンだよ」

 テトはレトルトパウチを器用に咥えて、よたよたと歩きづらそうにして暗がりに姿を消した。

 あの物言いからして既に近所の野良と事を構えていたようだ。テトのことだからまさか負けはしないだろうが、せっかくの可愛い身体なんだから大事にしてほしいと巡は思う。

「ま、人の心配より自分の心配しなきゃね」

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