迷宮世界:4
ヤドリギの杖にぶら下がった
どこから対処しようかと算段を立てていたところ、視界の端から急速に接近するものがあった。
「おわあ!」
牛頭の投げた槍が、二人の目の前をかすめていく。
「そっちがその気なら!」
地面に降り立った巡は杖を横薙ぎに振る。眼前に並べられた無数のヤドリギの枝が、光の矢になって一斉に打ち出された。
牛頭は四本の腕を構えて巡の攻撃を受けとめる。猛然と浴びせられる光の嵐はしかし、怪物の圧倒的な質量を打ち負かすだけの威力はないようだった。
枝が砕ける激しい閃光を物ともせず、牛頭は二人に突進してくる。
「今よテト!」
「おっけー!」
巡が空中に編んだ力場を蹴って、テトは弾丸のように飛翔した。巡の放つ攻撃に紛れ、一気に敵との距離を詰める。見る者の目を焼くような激しい爆炎に包まれた牛頭は、それに全く気が付かない。
一方のテトは相手の様子を完全に把握していた。
爆ぜる光の向こう側、その巨体がどのような体勢なのか、どこを守りどこに隙があるか、どれほどの力がどの道筋を通って流れているか、もしくは流れていないか――。
その世界におけるあらゆる物事を観測する能力――それがテトの〈
先の対決でも、やはりテトは全てを観ていた。それでも牛頭の大きさや冗談みたいな身のこなしに気圧され攻めあぐねてしまったのだが、
要は如何にして懐に飛び込むかだ。
先ほどの巡とテトはサポートと攻撃をそれぞれ分担し、段階的に攻略しようとしたが、それでは相手に対処の時間を与えるだけだった。ならば全てをいちどきに行えばどうだ。僅かでもいい、たとえ針の穴ほどの隙であっても、そこを突破してしまえばこちらの勝ちなのだ。
テトは法力で編んだ鎖を横に投げ、その反力を利用して軌道を変える。牛頭の脇をすり抜けると同時に鎖が反対側の肩に突き刺さり、テトは怪物の胴体を支点にしてぐるりと向きを変え、うなじに取り付く。
牛頭がそれに気づいた時、すでにテトは鯨の背のような首筋に拳を振り下ろしていた。
「まずは一体!」
鬱憤を晴らすかのように、ありったけの力で拳を撃ち込む。衝撃が分厚い皮膚を貫き、その下にある頚椎を粉々に砕いた。
基礎を砕かれた塔が瓦解するように、牛頭は膝から崩れ落ちた。
骸から飛び降りたテトは巡の元に駆け寄り、顔を寄せる。
「――さて、どうしようか」
「敵はみんな同じみたいだから、今のように攻略していけばいいけど、これだけの数を相手にするのはちょっと堪えるわね。……でもこれはこれで好都合かしらん」
巡は、まるで化け猫のような小狡い笑みを浮かべる。
「僕らの力じゃ食い止めきれないかもねえ」
テトの口調もまた、軽薄さを隠そうともしていない。
「そういうこと」と巡は世界樹の方を見て、「あっちはあとどのくらいかかりそうかな」
「あの様子だと、そうすぐには終わらないねえ。でも流石は指定管理官サマってとこかな。手際がいいよ」
「よし、じゃあこのまま順調に追い詰められていくって方向で」
「了解だよー」
二人はまた杖に乗って飛び去る。
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