SF世界:2
目的の階層についた
「手薄すぎない?」
警報が鳴り響く通路の角から銃身を出し、ガンカメラでその向こうを捜索する。レーダにもカメラにも、敵の姿は映らない。
テトも同じことを思っていたようで、
『区画ごと隔離してたとはいえ、重要設備をほったらかしってのは、確かに変だねえ』
通路をしばらく進んだところで、巡がその足を止めた。
「ねえ、これ見てよ」
敵のものと思われる携行火器が無造作に放り出されていた。
それだけではない。辺りを見回せば壁や床には弾痕があり、未使用の弾倉や防盾、弾が装填されたままの重火器や投擲弾などが、あちこちに置き去りにされていた。
まるで、戦闘の最中に兵士だけがこつぜんと姿を消したようだった。
『巡、なんか変だよここ。世界がほつれてる』
「……うん。私も感じる。でも、それってこの次元崩壊兵器の影響とは違うのかな。ここの反応炉はもう稼働しちゃってるんでしょ?」
巡たちがいるこの要塞は、それ自体が敵の切り札――次元崩壊兵器なのだった。
終末思想をこじらせた果てに銀河を滅ぼそうとしているらしいが、このままだと銀河どころか世界にまで風穴を開けかねない。というわけで、たまたまこの世界を訪れていた巡と、その相棒のテトに任務が与えられのだった。
目的は次元崩壊兵器の発動阻止。
しかし――
『まだそんな出力には至ってないよ。微小なゆらぎはあるけど、人を消すほどの穴は開けられないねえ』
「自分ごと銀河を消し飛ばそうって時に、己の命惜しさに逃げ出すってことも考えづらいわね……」
『なんにせよ、用心しとこう。――そろそろサブコントロールルームだよ。そこから反応炉の制御系に干渉できる』
二人は入り組んだ通路の隔壁を開放しながら奥へ進み、目的の部屋にたどり着く。
「うわー」
『これはひどい』
サブコントロールルームはもはや廃墟と化していた。兵器が起動した時点で破壊されたのだろう。無事なコンソールはひとつもなく、室内の設備もことごとく損なわれていた。
「テト、ここから反応炉にアクセスできる?」
『やってみるけど、無理なようなら直接破壊しに行かなきゃならないね』
「ああもう、面倒くさいったら――」
背後に気配。
「――っ!」
振り向くより早く腕部の小型防盾を展開し備える。
しかし完全に後手だった。
相手も同じくスーツを着た人間だと認識するその一瞬。近距離から繰り出された高密度のエネルギブレードはいともたやすく巡の防盾を貫き、右肘から先を斬り飛ばす。
だが巡は怯まない。
相手の胴めがけて更に踏み込み、渾身の力で刺突兵器を打ち込む。
装甲を貫く確かな手応え。
ほとんど同時に防護用パックをマニュアルで射出。自己鍛造弾が身動きの取れない相手に向かって打ち出される。
爆炎が二人を包む。
『巡!』
立ち込める煙の向こう、不可視光センサがとらえたモノクロの視界にはしかし、相手の姿は無かった。
相手は一瞬の間に、コントロールルームの出入口まで移動していた。
即座にマシンガンを抜き弾をばら撒くが、銃口が相手を捉える前に、その姿は通路のほうに消えた。
追撃のために床を蹴った巡は戸口に張り付き、警戒しながら通路に顔を出すが、
「――いない」
レーダにもカメラにも、反応するものはなかった。
「テト! さっきの奴は!」
『わかんないよ! 全然反応がなかったんだもん!』
「なんだったのよいったい……」
『とにかく、ここにもう用はないよ。制御系へのアクセスは無理だ。他をあたるか、物理的に反応炉を破壊するしかない。それに、やっぱりなんか妙だよ。はやく移動しよう!』
珍しくヒステリックな様子をみせるテトの言葉は、巡の耳に届いていなかった。
腕を斬り落とされたからではない。傷はスーツの医療機能で蓋をされ、身体的なダメージは最小に抑えられている。だが、そんなことは巡にとってはどうでもよかった。
「因果律を……操作された?」
呆然として立ち尽くす巡の背後で、次元崩壊兵器が世界の最期を告げる咆哮をあげた。
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