◆似たもの同士は煽りあう

無双のバラズ読了後推奨です。

Not恋愛書き出し/終りお題

https://shindanmaker.com/1147155 のお題を使わせていただきました。


 目の前に嫌な奴が座っている。

「リーフィ、元気そうだねえ」

「バラズ先生もお元気そうで何よりだわ」

 やってきたのは、ファリド=バラズ。

 リーフィの保護者格だとかいう、地方の貧乏貴族出身だという小柄な隠居老人である。

「くそう、オレのリーフィちゃんがああ」

 シャーの大好きなリーフィは、保護者で市昇格である彼が来るとシャーそっちのけで話し相手をするわけで、シャーは彼が目障りなのだ。

 とはいえ、普通の相手なら、例の三白眼でじっとり睨んで圧をかけつづければ、そこそこの効果はある。

 だが。しかし。

(このジジイだけは!)

 シャー=ルギィズは、その男が苦手だ。

 

 ちょっと小洒落た襟巻きを巻いた、小柄な単なる好々爺。元は歴史書の編纂官をしていて、今はただののんびりした隠居ジジイ。目立つ役職にもつかず、それゆえに乱世のこの国を生き延びてきたような平凡な爺さん、に見える。

 だが。そんなふうにしか見えないこのバラズのジジイが、シャーはとても苦手なのだ。

「なんだよ、爺さん、また来たのかよ」

 とはいえ、シャーも一応は絡んでみる。運良く出て行ってくれるかもしれない。が、そんな軽々と思惑通りにいかない。

 バラズは肩をすくめた。

「また? 何言ってるの。私はリーフィの保護者だよ。何の関係もないお前さんがリーフィの身辺うろついている方が目障りだし、どう考えてもおかしいだろうが」

「オレはリーフィちゃんのお得意様ですうう!」

「私の方がお得意様ですううう! あのねえ、自分で金払って飲んでない奴にお得意様なのられても迷惑なの! つーか、うちの可愛いリーフィにはヒモはお断りなんだよ。帰れ帰れ」

 むぐ、と不機嫌になるシャーに、バラズは意味深に笑っていった。

「それともなんだね? 私と勝負でもするかね?」

 にたあと笑うバラズの手には、いつしか骨牌カードが握られていた。

「いいよ。負ければ身を引く覚悟が、お前さんにあるならねえ。私は女神の神託には従うタチさ。お前さんが私に勝てるような男なら、リーフィとの交際だって認めてあげる。まーーー、交際する段階じゃないだろうけどねえええ! はっはははは」

 嘲笑うバラズ。

「ぐぬぬぬぬ、くそジジイっ!」

 ムカつく。正直ムカつく。だが、流石のシャーもこの爺さんにはおいそれと逆らえないのだ。

 その男、ファリド=バラズ=シーマルヤーンは、ただの小柄な好々爺にしか見えないし、彼にはシャーほどの武力もないけれど。

(このジジイ、伝説のイカサマ師だけあって、こういう時の目の据わり方、やべえんだよな)

 シャーは、バラズの目つきに圧倒されてしまうのだ。こういう時のバラズときたら、今から人を襲おうとしている獣ような目をする。

 もちろん、彼が骨牌をなめらかにざらざらっと混ぜる手つきも玄人そのもの。どんなイカサマでもやってみせようというものだ。

 若い頃に賭博師をしていたという彼は、好々爺の中から時折獣みたいな本性がのぞくことがある。

 シャーだって散々死線も彷徨ってきたけれど、ちょっとバラズの度胸には一目置かざるをえないのだった。

「オレが、あんたに博打で勝てるわけねーじゃん。得意科目以外にしろよ」

「ふん、そんな覚悟じゃリーフィは渡せないねえ」

「アンタがぜーったいイカサマ使うのわかってるからだよ!」

「それでも勝負しようという気概のないやつだから、ダメって言ってるのー!」

「イカサマ師に丸腰で勝負挑めるかよ!」

 そんなふうに言い合う彼らをリーフィは遠くで笑って見ている。


 バラズが所用で席を立った瞬間、シャーはリーフィのもとにささっと寄ってはなしかけた。

「また口喧嘩していたの?」

 シャーは不機嫌だ。

「かーっ、マジ、あの爺さん、なんなのさあ」

「先生とシャー、相変わらずねえ」

 けれど、リーフィはなんとなく彼らが張り合う理由がわかるのだ。

「先生、シャーと性格が似てるもの。きっと、つい煽ってしまうんだわ」

「に、似てないよっ、あんなジジイなんかとはー」

 シャーはとりあえずそう否定してみたが。

(身に覚えはないでもないんだよ)

 確かに、ちょっと彼と自分は似ているところがある。だからこそ、シャーは彼が苦手なのだ。

「似たもの同士よ、二人とも」

 シャーはそれを唸って受け止めるけれども、それは、内心分かっていたことだ。

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