〇兄貴達の調査風景
※サギッタリウスの夜以降の小話。
俺は傭兵。人呼んで蠍のジュバ。
仕事につられて流れに流れ、ザファルバーン王国の王都にまで流れてきたのはいいものの、ちょっとアブナイ仕事に手を出してしまって追われる羽目にもなった。今はというと、まあ紆余曲折あって、それなりのお方に雇ってもらって、それなりに仕事をこなして、まあまあ満足な生活をしているというわけだ。
それはまあいいとして、近頃妙な依頼が多くて困っている。
例えば、妙な三白眼の男を尾行しろだとか(しかも、危ない目にあってたら、加勢して助けてくれという条件付き)、美人だがやたらと無表情すぎるおねえちゃんの護衛だとかだ。三白眼の男については、俺としたことが尾行に気づかれて撒かれるという失態を演じたので今もって再挑戦しているところだ。
普段なら、そういうチンケな仕事は受けない俺なのだが、頼んでくるヤツがヤツだけに断れない。昔馴染みなだけじゃなく、そいつにはちょっと借りがあるんでね。
今日も俺は、調べた話をその男に報告している。
「で、この間の件だが、その妓楼にいるお前が言う娘は商売に出てないんだってさ。なんでも、結構なお大尽が病気の娘をかわいそうにおもって、部屋借り上げて住まわせてるんだってよ」
「そうか。なるほど」
真剣な顔をして手帳になにやら几帳面に書き付けているのは、ジャッキールという名前の御同業(傭兵)の狂犬野郎だ。俺は、コイツのことを昔からよく知っているので、そいつが昔使っていた名前のエーリッヒと呼んでいる。
「ふうむ。なるほど、妓女を囲っているのかと思いきや、病気の娘を保護しているのか。あの男、意外といいところもあるのだな」
エーリッヒがぼそりといったので俺は聞き返す。
「何? 知ってるやつなのか?」
「いや、それはまだ確証が持てないのだが、俺の知り合いだとしたらだ」
このところ、例の意味のわからん一連の仕事を依頼してくるのはこの男だった。仕事の内容も内容だし、相手も相手だから、俺だってお友達価格でやってやっているのだが、それにしてもどういうつもりなのだろう。この男、そんなに他人に興味を持つような男じゃなかったんだがなあ。
しかも、今日は何故か、こいつとは宿敵の筈の、あの髭のサギッタリウスまでが、後ろに控えてなにやら菓子を食っている。この男もコイツと同じく
「ともあれ、そのシーリーンという娘が出入りしているところに、ネズミみたいな、でもやたらと派手な服を着た男が出入りしているのは確かなのだな」
サギッタリウスまでが、どうやら興味津々だ。
「まあ、そういうことだ。そいつがお大尽かどうかはわからねえよ。店の中まで覗くには、お前等の出してくる予算が足りねえじゃねえか」
「それはそうだな」
「まったく、どうせならこっちだって廓遊びしながら仕事したいもんだぜ」
俺がそう嫌味をいってやるが、こいつらには大して効き目はない。
「よし、わかったぞジュバ」
なにやら手帳に書き終えたエーリッヒが、深々と頷いた。
「それでは、今後も情報提供を頼む。お前だけが頼りなのだ」
「うむ、特にこの件に関しては、お前だけが頼りなのだからな」
「あ、ああ、別にそれはいいんだけどよ」
俺は二人に囲まれて頼まれてしまったので、とりあえず頷いておく。
が、なんだって、こいつらこんなことを真剣に調べているのか。
正直、コイツラ二人がやることは昔から意味不明だったが、この街に来て平穏に暮らしだして(いるらしい)から、余計に意味がわからない。
まあ、俺は別にいいんだけどな。基本的にコイツラのことは嫌いじゃない。小遣い程度だが、金も払ってくれるし、確かに借りもある。ただ、もうちょっと事情を話してくれてもいいじゃねえか。そんな風に思うのだが、コイツラ二人はとかく口が堅いのだ。だから、俺は最初からコイツラから聞き出そうとは思わない。
しかし、あの三白眼の兄ちゃんは何か知っていそうだな。今度こそ、尾行して撒かれないようにして、最終的には捕まえる。その時、コイツラのことについて、ちょっと話でも聞いてやろうかと思っている。
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