異能の強さは使い方次第

第2話 殺したくて



いつもと変わらない夜


夏の暑さで染み出した汗を吸ってすっかりくたくたになったシャツを着込み帰宅する会社員


明日は休みだと意気込んで朝まで飲みこそうとする上司

それに巻き込まれていやいや付き合う部下


いつもと変わらない夜だ。


月の光を遮る塔の影でもいつもどおりの光景が広がっていた。








「ひっ……ひゃぁぁぁあ!?」




近道しようとビルとビルの間を通り抜けようとした集団、おそらく会社帰りのサラリーマンだろう。客引きや酔っ払いで溢れる繁華街を避け一歩外れた道に移るため、薄暗いビルとビルの間の細道を進んだはずだった。









ーーその瞬間、空から壁から地面から"フッ"と明かりが消え辺りは暗闇に包まれた。



音もせず、光もないその空間に広がるのは蒸せるような濃い血の匂いだけ。


自分しかいないかのような静寂と突然いなくなった仲間たち……そして、その仲間達のものであろう血、の匂い



「ーーーッ!?」


突然、首に巻きついた何かがキリキリと首を絞めて行く。

蛇がその身で獲物を絞めるように、ぐりぐりと巻きついて離さない。

声を出そうにも出せず。姿を見ようにも暗闇にその姿はない。



そして、ジタバタともがき苦しんだ男は、ようやく蛇から解放されると口から内臓を吐き出し、しばらく目を泳がせた後、全く動かなくなった。






ビルの間から流れ出す濃厚な血の匂い、危険だ!そうわかっているのに人間は近づいてしまう。

見たい!その好奇心が勝ってしまうのだ。



壁に手をつき、息を殺してゆっくりと進んで行く。

高くそびえ立つビル群に明かりは遮られ進むにつれ暗くなってゆく。




ーーッッ!?





ずっと壁につけて来た左手が異物を感じ取った。

ぬるっ…としたそれはポタポタを音を立てて上から滴り落ちている。


目を見開いて恐る恐る上を見れば、


「あ、あ……う…」


その光景に息が詰まる。

見たくないのに暗さに慣れて来た目がソレを捉える。

身体を支配した恐怖が、その場に留まらせる。




カツ



カツ




カツ




後ろから何者かが近づく足音で一瞬恐怖から解放された男はそのまま走り出した。


「ひっ……ひゃぁぁぁあ!?」




みっともない奇声をあげながら身体中から体液を漏らして走りだす。


びちゃ!びちゃっ!びちゃ…


「うゎあぁあああ!」


自らの足音にビビった男は更に速度を上げて走る。






はぁ はぁ…… はぁ。


まだ抜けないのか!

進めど進めど外に出れない。


少し遠くには町の明かりが見えているのに。



くらっ





疲労からか突然身体の力が抜け地に伏せる。



びちゃ……。


否。


男は音もなくバラバラにされ、それに気づかぬまま、死んだ。








◇◇



ビュンビュンと音を立て鎖を振り回す男。じゃらりと男の手から伸びる鎖の先に付くのは赤い液体がこびりつく刃だ。


鎖鎌……鎖の先につけられた鎌で離れた相手を刈り取る中距離攻撃武器だ。


先ほども、獲物4匹と血につられてやって来たハイエナくんを1匹駆除して計5匹の人間を殺した。




アビリティクラウド


異能力者至上主義の組織だ。

異能力者を排斥しようとする旧人類と新人類である異能力者は常に考え方や生活の違いで揉めて来た。


そこで創設者は、反異能力者の理念を持つ人間を調べ派手に殺すように通達している。


最初は父に勧められ嫌々加入したが、旧人類という劣った存在を殺すことに快感を覚え、毎日のように鎖鎌で切り刻んでいる。



異能力者が旧人類と違う点はもう一つあり、それは"生き物の命を奪うほど強くなる"という点だ。

それ以前に異能力者は生まれた時から殺したいという欲が強く、その点でも旧人類とは歪みが生まれることにつながっている。



「よっと」



三十階建てのマンションの屋上から飛び降り、鎖鎌で壁に引っ掛けながら降下する。



ーーギィギィギギギ!



黒板を引っ掻くような不快な音を立て殺人現場に降り立った俺は、足元に転がっていた頭部を繁華街の方に投げそのまま立ち去った。









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