3.農書から見る肥料の使い方

参考書:農業全書


〇肥料について


肥料とは、その土地の悪いところを改善する、町医者の薬と同じものである。

そのため、その土地の病気を知り、それに合う薬となる肥料を使い分けることで、

多くの収穫を得ることができるのである。

古語にも「肥料を大事にするものは、黄金を大事にするがごとし」ということわざがある。

しかし、良い肥料で多くの作物を作ることで、一つ一つに手が回らず、かえって出費倒れとなる場合がある。

何事にも、身の程に合った栽培を心掛けたがよい。


田畑には、肥えたところもあれば、痩せた土地もある。

痩せた土地で作業を行うには、肥料を与えることが急務である。


昔であれば農地をすべて使わなくとも、痩せてしまった田畑を一年休ませることで地力を整えることができたが、近年では人も増え続け、そのようなことも出来なくなってきている。

そのため、農家は肥料を管理する肥料小屋を建て、ワラやヌカ、枯れ草など肥料となるものを蓄え、牛馬に踏ませることで多くの肥料を小屋に集めることができるのである。

小屋は、雨風がしのげる作りが良く、牛馬が毎日踏んだ肥料は1年で5反に利用することも出来る量を作ることができる。



◎肥料の種類

肥料には大きく分けて4つに分類できる。

苗肥、草肥、灰肥、泥肥(その他、水肥というものもある)


〇苗肥


緑豆、大豆などを五,六月(新暦:6月中旬)に種をまき、七,八月(新暦:8月上旬)に刈り取り腐らせることで肥料となる。

すっかり痩せてしまった土地を休田する際に、苗肥を行うと肥えた土地にすることができる。


〇草肥

草木が生い茂ったものを刈り取り、日の当たる場所に集め、十分に乾燥させ下肥(現在の有機肥料か、牛糞たい肥など)を混ぜ合わせ、小屋で熟成させたもの。

元肥として使うと効果が大きく、粘土質や硬い田畑に混ぜることで、土壌改善を行うことも出来る。


〇焼肥(灰肥?)

生活で出た灰を下肥と混ぜ合わせたもの。

田んぼで利用すると、効果が大きく出る。

また、野菜の成長を促進させる機能があるといわれている。

(灰には、酸度調整の効果や、炭に土着菌が住み着く、と言われているため、そういった機能により成長が良くなるのではないかと思われる)


〇泥肥

池や川、溝の底にたまった土を乾燥させて、下肥と混ぜて利用することで効果が発揮する。

生育が弱い植物に利用するとよいため、利用しやすい肥料である。

(粘土や、ヘドロのことを言っているのではないかと思われる)


〇水肥

雨水やふろ水、米を研いだ水などを集め、下肥と混ぜ合わせたもの。

油粕や、灰などと合わせるのがよい。

集め貯蔵する際は、桶を利用し、陽を当てることで効果が発揮する。

かめや壺に入れておくと陰気が残り、効果が少なくなる。

水田で利用する場合は、土を十分に乾燥させて砕き、その後にかけるのが良い。


〇その他の肥料


動物の死骸を肥料にする際は、よく腐らせてから利用する。

腐りにくい場合は、”にら”を混ぜ合わせることで腐りやすくなる。


陽が当たりにくく、水も冷たい土地の場合は、カキやハマグリなどの貝殻を焼いて灰にし、肥料とともに混ぜることで、肥えた土地になる。

(貝殻は、pHを変える時などに使われるが、土地の地温がよくなったり、肥えた土になるのかは不明)


水の冷たい土地は、水路を日が多く当たるように迂回させてから、田畑で利用することで、水肥となり生育が良くなる。


家のごみや、雨水も大切に集め、100日もすれば肥料として役に立つ。


〇肥料と、地質について


黒土、赤土には油粕。


黒い土には、肥えすぎてしまい、成長はするが実のつかない土地がある。

その際は、川砂などを混ぜることで、調節ができる。


砂地には、干しイワシ。

粘りの強い土には、綿の油粕がよい。


土地の状況により、肥料を使い分けていくとよい。

湿気が多く冷たく痩せた土地なら、焼肥や灰を入れることで、地温を上げることができる。

陽のあたりが強く、乾燥しやすい土地の場合は、水肥を利用する。

(焼肥や灰が陽。水肥は陰のそれぞれ気を持っていると考えているため)


〇良い肥料とは?


肥料は、よく熟成させることである。

熟成が足りないと、虫を呼び寄せる基になり、土地にも障害が残るため、注意した方が良い。

しかし、熟成させすぎると、肥料としての効果を失い、効き目が少なくなるものもあるため、確認してから使う方が良い。


田畑に肥料を入れることは、和食を作ることと同じであり、調味料のようにうまく調和しなければ良いモノができない。


農家は、町医者と同じく、常に薬となる草などを刈り集めておき、田畑の症状や、利用する時期などをよく吟味し、質の高いものを手元に集めておくことである。


草や雨水などを集めることは、道理を知らないものから見たら、きわめて軽蔑すべきことかもしれない。

しかし、それらを施すことによって五穀すら実らない痩せた土地でも、十分に収穫を上げることも出来るのである。

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