第71話
お兄さんやお姉ちゃんの手を借りて、子供がようやくわたしのお乳を飲んでくれた。
久しぶりの感触。
でも、ちょっと痛いかな。
男の子だもんね。
でも、なかなか自分から飲みに来ない。
おかしいなぁ。
なにかあるのかな?
「……何かあるらしいやで」
壁さんが笑いをこらえながら教えてくれる。
なあに?何がおかしいの?
「まあ、この仔の言うこと聞いてみたらええやで」
なにか言ってるみたい。
「やだー!自分で動くのやだー!お乳が来ればいいんだー!」
……あらあら。
「男の子やなぁ。男はみんなだいたい甘えん坊なんやで」
壁さんが教えてくれる。
そうなんだねぇ。
でも、ずっとこのままじゃないでしょ?
「それはシュシュ次第やで。くぅよりは手がかかるかもしれんやで」
そっかぁ。わたしがしっかりしなくちゃだね。
「ワイも手伝えることがあればやるやで」
うん、わかった。
お姉ちゃんがこの仔のことをもきちって呼んでる。
もきちがこの仔の名前みたい。
「茂吉とは古風やなぁ。それもまたええやで」
壁さんはひとりで納得してるみたい。
少しだけ間を置いて、壁さんはこんなことを言い出した。
「男の子は古風なぐらいがちょうどええやで。よっしゃ、ワイに任しとくやで」
なにをおまかせすればいいのかな。
男の子は初めてだから、わたしもよくわからない。
あとでダヨーさんに聞いてみるかな。
次の日。
わたしたちは小さなお庭に出ることになった。
わたしも外に出るときは面倒だなあって思うけど、茂吉はそれ以上みたい。
「やだー!動くのいやだー!お庭が来ればいいんだー!!」
……困った仔ね。
お姉ちゃんたちが茂吉のお尻を押して、なんとか歩かせる。
歩けないとかどこか痛いとかではなさそう。
それでも、お庭に出れば周りを見たり歩いたりしてる。
初めて見るものばかりで珍しいんだろうね。
お腹が空けば自分からわたしのお乳に吸い付いてくる。
少しずつ、自分から動くことも覚えてね。
寒くなってきたので部屋に戻る。
茂吉は壁さんに呼ばれてなにかお話をしてる。
そういえばくぅちゃんもこうして壁さんとお話してたっけ。
何をお話してたのかは、最後まで聞けなかったけど。
「男の子も女の子もあんまり変わらないんダヨー。シュシュのやりたいようにすればいいんダヨー」
ダヨーさんが部屋の向こうから声をかけてくれる。
前の仔と全然違うから、ちょっとびっくりしてるよ。
こう言うと、ダヨーさんは「そんなに違いはないんダヨー」と笑う。
「お乳飲ませてお世話して、しつけすればいいんダヨー」
確かにそうなんだけどさぁ……。
茂吉と壁さんのお話はまだ続いてる。
おかげでわたしはゆっくり牧草を食べられる。
ちょっと、感謝だね。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
男の子は大変……かも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます