第69話
外は雪が降りそうなくらい寒い。
わたしたちは寒いのはなんでもないけど、お兄さんやお姉ちゃんたちが寒そう。
こんなときに元気にしてるのはわたしたちの他にもちこちゃんぐらいかな。
庭の青草はもうほとんどないから、お兄さんたちが牧草を置いてくれてる。
それをダヨーさんと一緒に食べる。
「相変わらずシュシュは一口が多いんダヨー。それじゃすぐになくなっちゃうんダヨー」
ダヨーさんが笑ってる。一度に食べるのは少しずつにしてるつもりなんだけど、ダヨーさんからしたらたくさん食べてるように見えるんだろうな。
お腹がだんだん大きくなってる気がして、食べる量も一度にはあまりたくさんに入らない。
もっとたくさん食べたいんだけどなぁ。
「今たくさん食べたら、夜に楽しみがないんダヨー」
ダヨーさんはこう言ってまた笑う。
夜の楽しみかあ……。
夜になればお姉ちゃんたちが様子を見に来てくれる。
お部屋を掃除してくれて、お水が足りなくなってたら足してくれて。
ルーサンも置いてってくれる。
それに、ニンジンももらえる。
だから夜はわたしたちの楽しい時間。
晩ご飯の桶があればもっと楽しいけど、こればっかりは仕方ない。
だって、晩ご飯は寒くならないともらえないの知ってるからね。
その日の夜。
いつものように牧草を食べながらダヨーさんと話をしていたら、お姉ちゃんがやってきた。
いつもならすぐにこっちに来てニンジンとルーサンをくれるんだけど、今日はなかなかこっちに来ない。
ダヨーさんの部屋の陰で何かごそごそやってる。
もしかして……?
つい前がきをしてしまう。
「シュシュのお待ちかねのが来るダヨー」
ダヨーさんが教えてくれる。
きっと部屋の入り口から首を伸ばして見てるんだろうな。
そうしてお姉ちゃんが持ってきてくれたもの。
晩ご飯の桶。
部屋の入口に掛けてくれるのももどかしく、鼻先を突っ込んで食べる。
……あれ?
一口食べて、つい顔を上げてしまった。
「どないしたんやで?」
壁さんがニヤニヤしながら聞いてくる。
たぶん、壁さんは知ってるはず。
……なんかお水多い気がするの。
「ああ、それで正解やで」
壁さんがまたニヤニヤしながら言う。
「シュシュがあんまり早食いなんで、水増やして一気に入っていかんようにしたらしいやで」
そっかぁ。それじゃあ食べにくくて当然だ。
これじゃあ楽しみが減っちゃうよ。
「もっとも、うまいもんを長く食えるのも楽しみっちゃ楽しみなんやで」
……それもそうだねぇ。
水気の多いご飯だけど味はおいしい。
わたしは味わって食べることにした。
もうすぐ雪が降ってくるのかな。
そうしたら、お腹の仔に会える日が近くなる。
どんな仔だろう。
楽しみなような、不安なような。
でも、そんなこと考えてても仕方ないよね。
会える日を楽しみにしよう。
それまで、あとどのくらいかなぁ……。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
晩ご飯、おいしかったよ。
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