第54話

だいぶお腹が大きくなった気がする。

ダヨーさんのお腹もだいぶ大きい。ということは、わたしのお腹も同じように大きいはず。

これだけ体が重たいのも久しぶりの感覚。

壁さんが言うには、わたしもダヨーさんもあと2ヶ月もしないで産まれるみたい。

でも、2ヶ月ってどのくらいだろう。


庭にいる間はダヨーさんといろんなお話をしてる。

ゆうべのご飯おいしくなかったねとか、ニンジンの量が少なかったとか。

ダヨーさんはニコニコしながら相槌を打つだけ。

わたしより1つ下なのに、ずいぶんと大人なんだなあって思うこともある。


「わたしの仔がゲート試験受かったらしいんダヨー。レースはまだまだだと思うダヨー」

不意にダヨーさんがこんなことを言い出した。

ダヨーさんって、子供何頭いるの?

「3頭いるんダヨー。今のが4頭目なんダヨー」

少しびっくりした。てっきり1頭か2頭ぐらいだと思ってた。


「レース中に大きな怪我して早くに引退したからダヨー。だからレースの方はシュシュの方が詳しいくらいダヨー」

そう言ってダヨーさんは笑う。

余裕があるのはそういうことだったんだね。

わたし、知らなかったよ。

でも、子供が試験受かったのってなんでわかったの?

「壁さんが教えてくれたんダヨー」

……ああ、そういうことね。


「そういえば、シュシュの仔はどこにいるんダヨー」

ダヨーさんが聞いてきた。胸の奥が少し痛む。

そうだねぇ……。ずいぶんと遠くに行っちゃったなあ。

でも、すぐ近くにいるような気もするよ。

こう答えるしかなかった。

「どこに行ってもシュシュの仔だから、きっとご飯いっぱい食べて元気にやってると思うダヨー」

ダヨーさんはにっこり笑ってそう言った。


たるこにはご飯は残さず食べるのよって教えたな。

あっちで友達いっぱい出来たかな。

もうすぐ、たるちゃんの弟か妹が産まれるからね。

遠くの空に向かって、胸の奥でつぶやいた。


夕方になれば部屋に戻る。

部屋でご飯を食べてると、突然ダヨーさんの声が聞こえた。

「ねえシュシュ、今お腹の仔が動いたんダヨー。シュシュはどうなんダヨー?」

そういえば、最近お腹の仔が動くような気がする。

いや、動くと言うより蹴られてる気がするかな。

そんなことを考えてたら、お腹の中でポコッと蹴られた気がした。

わたしのとこも動いたよーとダヨーさんに伝える。

「もしかしたら今度の仔はたるこよりやんちゃかおてんばかもしれんやで」

壁さんがこんなことを言い出す。

壁さんはそんなこともわかるのかな。

「そんな気がするだけやで。そうなったらシュシュは大変やで」

壁さんがニヤニヤしながら言う。

たるこにはずいぶんと蹴られたもんなあ。それ以上だと確かに大変かもしれない。

でも、壁さん助けてくれるんでしょ?

「ワイは野次馬してるだけなんやで」

壁さんはまたニヤニヤしながら言う。わたしは思い切り壁を蹴り上げた。


あと2ヶ月がどれくらいかはわからないけど、そう遠くないうちに子供に会える。

そう思ったら、なんだか楽しみになってきた。

でも、今の楽しみは毎日のご飯に牧草。

籠から牧草が頭の上に降ってきたって気にならない。

食べたら食べた分だけお腹の仔にも行くもんね。

そう思って、たくさん食べることにした。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

2ヶ月ってどのくらい?

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