第55話
お部屋に帰って来ると、なんだか騒々しい。
お兄さんやお兄さんに似てる人、他にも見た覚えのある人がいて、部屋の前でなにかやってる。
「今日はシュシュの誕生日やで。ええことあるからうるさくても辛抱やで」
壁さんがにこやかに言う。誕生日かぁ……。
そういえば。
去年はずいぶんと賑やかだったな。
チョイナさんと飾りのお花食べたのも思い出した。
それに、ニンジンやりんごがいっぱい入ったのをもらったことも思い出した。
でも、あれはあんまりおいしくなかったんだよね……。
そんなことまで思い出した。
「今年はもう少し違うやろし、期待してええんちゃうかな」
壁さんが言う。きっと壁さんは何か知ってる。
それが何かは教えてくれないけれど。
お兄さんたちは部屋の扉に飾り付けをしてる。
去年と同じく花を飾ってるし、金色の草みたいなものもつけてくれる。
そして、わたしの首にもなにかを掛けてくれた。
「お誕生日おめでとうって書いてあるやで。これで今日の主役やで」
壁さんが笑ってる。きっとみんなが喜ぶことなんだろうから、わたしも気にしないことにした。
でも、金色の草みたいなのは気になる。
食べられそうにも見えるから、少しくわえてみた。
そしたら、お兄さんがあわててわたしの口が届かないところへ、金色のを動かしてしまった。
きっと、食べられないものなんだろうね。
花は食べられるのを知ってるから少しもらおうと思ったら、お兄さんに似た人に止められる。
そうこうしてるうちに、目の前でニンジンやルーサンを用意してるのが見えた。
もうお腹が空いて仕方がない。
お兄さんに似た人に催促をしてしまう。
「牧草食うたらええんやで。そしたら腹は膨れるやで」
壁さんが呆れたように言う。わかってるよ。
ここで牧草に行ったら負けだよね。
今用意してもらってるのは今日の晩ごはん。
おいしく食べるには、今牧草を食べちゃいけないんだって。
ごはんを待ってる間にお兄さんの子供たちも来た。
そしてもちこちゃんも。
とっても賑やかで、こういうのも悪くない。
けど、お腹空いたなぁ……。
ダヨーさんも「こっちにも何もないんダヨー」って言ってる。
ダヨーさんもお腹空いたよね。
すぐ側にあるように見えるんだけど、入り口の棒のせいで届かない。
前掻きして催促する。
お腹空いたよーって。
お兄さんたちが何か歌いだした。
それに合わせて前掻きをしてみる。
早くご飯もらえるならこういうことでもしなくちゃ。
そうしたら、やっとごはんの桶がいつもの場所に掛けられた。
大急ぎで鼻先を突っ込む。
あれ?いつもと味が違う。
ニンジンやらルーサンやら、普段のごはんに入ってないものがいっぱい入ってる。
水が多くて食べにくいんだけど、これはこれでおいしい。
ダヨーさんも「今日は一段とおいしいんダヨー」って言ってる。
「でも、ダヨーさんのはいつもの飯なんやで」
壁さんが苦笑いしてる。
「教えるのは野暮やから言わんとくやで」
それがいいよね。
「今日はお兄さん、水加減間違えた言うてたやで」
どうりで……。
ごはんが終わって、お兄さんたちも帰って、部屋は真っ暗に。
ダヨーさんが「今日は楽しかったんダヨー」と言ってくる。
「賑やかだったし、ごはんおいしかったし、毎日がシュシュの誕生日ならいいんダヨー」
毎日かぁ。
そうしたら、わたしすぐにおばあちゃんになっちゃうよ。
そんなことを思って少し笑った。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
晩ごはん、おいしかったよ。
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