第53話

風が強い。

部屋の扉がガタガタ言ってる。だいぶ外は寒いのかな。

わたしたちのいる部屋も窓は開いてるから外と変わりないように見えるけど、吹きさらしじゃないだけ暖かい。

庭から戻って夕ご飯を食べた後、わたしとダヨーさんはのんびりしてた。


突然、ダヨーさんが声をかける。

「ねえシュシュ、これって何ダヨー?」

これ?

「部屋の上に何かついてるんダヨー」

何かってなんだろう。


「きっとカメラのことやで」

壁さんが教えてくれる。

この間、ダヨーさんの部屋にもカメラがついたって壁さん言ってたっけ。

でも、あまりうまくは教えられないなあ。

だって、わたしも正直よくわかってないんだもの。

わかってるのは、カメラの向こうにたくさんの人達がいて、わたしを見守ってるってことだけ。


「しゃあないやで。ワイが教えるやで」

壁さんがダヨーさんに何か話しかけてる。

こういうことは壁さんの方がよく知ってる。

というか、壁さんがわたしにカメラのことを教えてくれたんだもんね。


「壁さんのおかげでわかったダヨー」

ダヨーさんもわかったらしい。

カメラがあってもわたしたちにはあまり関係ないんだけど、あるってことを知ってるのと知らないのではだいぶ違う。

たくさんの人達がわたしたちを見守ってくれてると思えば、なんだか安心する。


「で、どうすればシュシュの部屋が見られるんダヨー?壁さん教えてほしいんダヨー」

ダヨーさん、まだわたしの観察したいのかなぁ……。

「なんぼ見られん言うても納得せんのやで。困ったやで……」

壁さんが苦笑いしてる。それを聞いてわたしも苦笑いした。


その夜。

お兄さんが夜ご飯を持ってきた。

「今日から晩飯がある言うてたやで。これで一安心やで」

壁さんがホッとしたような声を出す。わたしはというと、晩御飯の桶に一直線。

「まったく、シュシュは相変わらずやで……」

壁さんが呆れてる。だって、こんなおいしいもの食べないわけには行かないでしょ?

おやつのルーサンもあるし、やっと前に戻った感じ。

お姉ちゃんのときはニンジンもたくさんもらえるし。

お兄さんもニンジンはくれるんだけど、いつもほんの少しなのが少し残念。


……でも、最近困ったことがある。

お姉ちゃん、ここしばらくはニンジンじゃないものを持ってくる。

「ニンジンだよー」ってくれるんだけど、細長くてとてもニンジンに見えない。

だからつい横を向いてしまう。

この間なんか折ってくれたから仕方なく口に入れたけど、味がニンジンじゃないように感じた。

やっぱり、いつものニンジンがいい。

今度お姉ちゃんが来たらおねだりしてみよう。


そういえば。

水桶の上、壁の穴にも何かある。

何か透明なものがついてるけど、奥にあるものが気になる。

前にお姉ちゃんがあそこにニンジン置いてたことがあるのを思い出した。

もしかしたら、あれもニンジンかもしれない。

「それは大事なものやで。いたずらしたらいかんのやで」

いたずらはしないよ。何かちゃんと見たいだけ。

わたしは透明なものを外そうとした。

口でゴシゴシやってたら取れるかな。


部屋は明かりが消えてるけど、何があるかはよく見える。

けど、透明なものが反射して、奥にあるものがよく見えない。

だから外してみたくなった。

「シュシュ、それはいかんやで」

壁さんが言ってるけど、好奇心にはかなわない。

ゴシゴシしてるうちに、透明なものが取れた。

何か小さなものがそこにある。少なくともニンジンじゃないみたい。

「あーあ、外してもうたやで。それもカメラなんやで……」

壁さんが呆れてる。だって、何かわからなかったら困るし……。

「少なくとも、そこにニンジンはないんやで……」

なーんだ。わたしはちょっとガッカリした。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

ニンジン、いっぱい食べたいなぁ。

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