第46話

夢を見た。

たるこがわたしの横でニコニコしてた。

「おかあさん、今度生まれてくる仔はきっと丈夫に生まれてくるよ。神様にお願いしたから大丈夫だよー」

そう言ってわたしの脇に顔をすりつける。

それで弟か妹かどっちなのと聞いたら、たるこはハッとした顔をして「いっけない。神様に聞いてくるの忘れちゃったー」と言って笑った。

そうして今度はわたしの側で遊んでた。

周りにはエミちゃんや他の馬もいるはずなのに、誰もたるこに気づかない。

これは夢なんだろうなと思っているうちに、目が覚めた。


目が覚めてもたるこがまだ側にいるような気がして、脇をなめてみる。

たるちゃん、ここにいたんだよね。

そう思ったら、なんだか安心できる気がした。

きっと、これから生まれる仔は丈夫な仔になる。

そのためにも、わたしが頑張らなくちゃ。


それから何日かした日の朝。

お兄さんたちが呼ぶのに合わせて、わたしたちは庭の入口に集まる。

すると、わたしとエミちゃんの頭絡に引き綱がつけられる。

そうして、わたしとエミちゃんは部屋の方に引かれて行く。

どうやら、部屋に戻れるみたい。

後ろじゃシャーマンさんが「わたしじゃないのー!?」って言ってるのが聞こえる。

シャーマンさん、お兄さんが好きだからなあ。


あ、でも。

シャーマンさんが隣だと落ち着かないんだよねぇ……。


ようやく部屋に戻ってきた。

入るとすぐに牧草にかぶりつく。

「おいおい、青草ようけ食うて来たんやないのかい?」

壁さんが呆れてる。仕方ないじゃない、お腹が空くんだもの。

「まあ、シュシュから食い気取ったら何も残らんやで。せやからこれでええやで」

壁さんはいつも一言多い。つい尻尾ではたいてしまった。


伸びをして、用を足す。

それから牧草にかぶりつく。

小窓から隣を見たら、エミちゃんが踊ってる。

ようやく戻ってきたいつもの日々。

お腹の赤ちゃんも少しは大きくなったのかな。

この間の夢が少しだけ気になった。


お医者さんが来て、お腹の赤ちゃんの検査をしてくれた。

とっても順調だって言ってくれたみたい。壁さんが教えてくれた。

「大事なのはこれからやで。エミちゃんに先輩らしいとこ見せてやるやで。エミちゃんもうすぐ引っ越しやし」

えっ!?

エミちゃん引っ越しなの!?

「せやで。もうじき本家に引っ越しなんやで。それまでに先輩らしいことせなあかんやで」

先輩らしいことかぁ……。

柵を噛んだりもしないし、踊りも出来ないし。

わたしに何が出来るのかなあ……。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

先輩らしいことの意味を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る