第45話

わたしが庭にいるようになって、しばらく経った。

部屋に戻れないことを別にすれば、今までとそんなに変わらない。

アブが寄ってきてうるさいけれど、これは去年もそうだった。

相変わらずお弁当のときはシャーマンさんに邪魔されるけど、あとで落ちたご飯を食べられるからそんなに気にしてない。

むしろ、お弁当の後にハッピーさんと青草をお腹いっぱいになるまで食べるのが、最近のお気に入り。

ハッピーさんといると、ついつい多く食べてしまう。

きっと、ハッピーさんがいっぱい食べるからなんだろうな。


今日も柵のそばでシャーマンさんのこぼしたお弁当を食べてたら、周りにカラスが寄ってきた。

カラスたちはここでわたしたちとご飯を食べてからどこかに行ってしまう。一羽を除いては。

その一羽が、この間壁さんがお友達だと言ってたカラスみたい。このカラスだけ、ご飯に寄ってこないし、庭の入り口あたりにいつもいる。

そして、わたしたちのいる方を見ている。

それがなんだか心地よく感じるのは、きっと壁さんのお友達だからなんだろうね。


そのカラスが、珍しくわたしの側に寄ってきた。

「大丈夫。壁さんから伝言届けに来たんだ」

カラスはそう言うと、水飲み場の柵に止まる。なにかあったのかな?

「もうすぐ大雨だから木の陰に行った方がいいよ、って」

壁さんは天気も読めるらしい。ありがとうと返すと、カラスはこう言った。

「あの人、昔体を張って俺達を守ってくれたことがあってね。少しぐらい恩返しさせろって無理やり頼み込んだのさ」

恩返し?壁さん何かしてたの?

「それは本人に聞いてな。じゃあ、俺はこれで」

そう言うと、カラスはどこかへ飛んでいった。

するとほどなく、雨が降り出してきて、わたしたちは木の陰に逃げ込む。


木の陰に来ると、壁さんの声がした。

「おお、そない濡れんかったようやで。あいつ伝言伝えてくれたんやね」

壁さんは部屋にいなくていいのと聞くと、壁さんは少しため息をついてからこう言う。

「1歳のお守りも大変なんやで。今は馬房におらんから少しだけ抜けて来たやで」

そして、こんなことを言い出した。

「あのカラスはワイの昔の仕事仲間やで。あいつ変なこと言うてへんかったか?」

昔世話になったとか言ってたよと言うと、困ったような声が返ってくる。

「またいらんこと言うてたな……。ワイはなんもしてへんやで」

何もしてないようには見えなかったけどな。


「もうすぐお盆やな。今年は忙しくなりそうやで……」

壁さん、そう言うと気配が消えた。

多分部屋に戻って行ったんだと思う。

壁さんが忙しくしてるのはあまり想像つかないけど、きっと壁さんにもやることがあるんだろうね。

わたしのやることは、お腹の赤ちゃんをきちんと育てること。

そのためには、きちんと食べなくちゃだよね。

雨降りでアブのいない木の陰で、そんなことを考えてた。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

雨降りも悪くないね。

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