第47話

この間壁さんに言われたこと。

先輩らしいってなんだろうってずっと考えてた。

エミちゃんはまだ子供を産んだことがない。

だけど、お産が近くなったら他の馬がエミちゃんに教えてくれるものだとばかり思ってた。

だけど、今の庭にいる馬で、子供産んだことあるのって……。


……わたしだけだった。

聞かれたらなんでも教えるつもりではいたけれど、でもエミちゃんが自分から聞きに来るとも思えないし。

だからって教えに行くのもお節介だよねぇ……。

壁さんにどうしたらいいか聞こうとしたけど、たぶん教えてくれないだろうなあ。

肝心なことは言わないから。


そんなことを考えながら庭に出る。

お兄さんがわたしを庭に出して、いつもは入口の扉を閉めていく。

だけど、この日は違った。

お兄さん、扉を閉めずに帰っちゃった。

あれ?忘れたのかな?

少し気になったけど、みんなが待ってる方に行くことにした。

部屋につながってる扉は閉まってるし、みんなと一緒にいた方がいいから。


いつものように青草を食べてたら、珍しくエミちゃんが寄ってきた。

「相変わらずシュシュはよく食べるわねぇ」

少し呆れたように言う。わたしは苦笑いした。

「でも、そのぐらい食べなきゃお腹の仔に良くないのよね?」

え?


う、うん。いっぱい食べたらその分栄養行くみたいな気がするから。

そう答えると、エミちゃんは納得したような顔をした。

「わたしもシュシュを見習って少し食べることにするわ」

そう言って青草を食べだした。

普段は青草を食べることもだけど、柵を噛んだりしてることが多いのに。

少しびっくりした顔で見ていたら、「わたしだってお腹の仔のこと考えてるのよ」だって。


庭の入口が開いてることはすっかり忘れてて。

気がついたらシャーマンさんが青草を食べながら入口の近くにいるのが見えた。

すると、シャーマンさんは気がついて、入り口から外に出る。

シャーマンさんもそこで食べるのはすごく久しぶりだろうしなあ……と思って、声をかけずに遠くから見ていた。


シャーマンさんは顔も上げずにずっと草を食べてる。

そうしてるうちにお姉ちゃんたちがお弁当を持ってきた。

わたしたちはいつもどおりだけど、柵の外にいるシャーマンさんは青草に夢中。

時々こっちを見たりはするけど、こっちに来ようとはしない。

エミちゃんは知らないふりしてるし、アツコさんは気にしてないみたいだし。

わたしとハッピーさんは安心してお弁当食べられるから、わざとそのままにしてた。

お姉ちゃんがシャーマンさんに声をかけてたんだけど、シャーマンさんは返事しなかったし。


わたしたちはお弁当を食べ終えて、青草のある方へ歩いていく。

だいぶ遠くまで来たところで、ようやくシャーマンさんが走ってくるのが見えた。

「なんでみんな置いて行くのよー!!」

ずいぶんと怒ってるみたい。寂しかったのかな?

わたしはエミちゃんたちと顔を見合わせて笑った。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

今日も群れは平和です。

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