第27話

わたしがここに来てからちょうど一年が経った。

外は去年と変わらない雪景色。風の冷たさも去年と一緒。

でも、わたしはずいぶんと変わった気がする。


お腹は大きくなったし、ニンジンだって大好きになった。

なにより、わたしが群れのリーダーみたいになってる。

前のとこじゃいじめられてばっかりだったのに、今じゃわたしが群れをまとめてる。

あの頃のわたしにそんなことを言えば、きっと信じられないって言うだろうな。

だって、今のわたしだって信じられないもの。


チョイナさんの子供はお兄さんたちがミニーちゃんって呼んでた。

ミニーちゃんは時々廊下に出てきて遊んでる。

わたしと目が合うと、すぐにチョイナさんの方に行ってしまうけど、きっとまだ他の馬が怖いのかもしれない。

仲良く出来たらいいんだけどな。


お兄さんたちが、わたしの誕生日を祝ってくれることになった。

去年はケーキみたいなものをもらったけど、わたしが食べたいと思うものじゃなかった。

ニンジンだって初めて見たようなものだったし。

でも、今年はどんなものがもらえるか楽しみ。

きっと、わたしが食べられるものばかりだと思うから。


部屋の前にお兄さんとお兄さんに良く似た人がいて。

他にも見たことのない機械を扱う人たちがいて。

お兄さんたちの前にはニンジンやエン麦やいっぱいのごちそう。

壁さんが、カメラの向こうの人たちとお祝いをするんだって教えてくれた。


わたしの部屋とチョイナさんの部屋の間。

わたしの部屋のドアがあるんだけど、そこにお兄さんが次々に花を挿していく。

もしかして、これが今年のプレゼントなのかな?


「これはカメラの向こうのみんなからのやで。ええ仔を産んでやって願いが込められてるんやで」

壁さんが教えてくれる。

「この花、この前シュシュに会いに来てくれた人たちが送ってくれたんやで。それ以外の人も含めてようけもらえたなあ」

そうだねえ。ありがたいよね。本当。


花を挿し終わったら、わたしのケーキを作るらしい。

もうお腹がすいてたまらない。お兄さんに催促しようにも遠いし、お花を味見しようとしたら、お兄さんに似てる人が目の前にいるからあまりうまく出来なくて。

仕方がないから、お兄さんに似てる人にうんと催促してしまった。

それを見た壁さんが「もうちょい待てばおいしいのがもらえるやで」と笑いながら言う。

しょうがないじゃない。早く食べたいんだもの。


そうしてるうちにケーキが出来た。

お兄さんからもらって食べる。

ニンジンもエン麦もおいしいけど、赤くて丸くて大きなりんごと葉っぱは残した。

なんか、食べにくかったから。


横を見れば、チョイナさんがお花を食べてる。

わたしのって言おうとしたけど、チョイナさんもお腹すいてたんだよね。

幸せのお裾分けだと思って、黙ってた。


お祝いにはお兄さんの子供たちも来たし、もちこちゃんもやってきて、すごく賑やかだった。

「カメラの向こう側でもいっぱいお祝いしてくれてたしな。こんなたくさんの人に思われてて、シュシュは幸せ者やで」

お祝いが終わってから、壁さんがしみじみとした口調で言った。

そうだよねぇ。わたしの赤ちゃんが産まれたら、みんなお祝いしてくれるかな?

「そらもう当然やで。今からみんな楽しみでならん言うとるやで」

そっかぁ。じゃあがんばらなくちゃいけないな。

そう答えたら、お腹の赤ちゃんが動いた。

赤ちゃんもがんばるって言ってるみたいで、なんだかうれしくなった。


お兄さんがわたしのお乳を見て、もういつ産まれてもいいようにしないとって言ってた。

もうすぐ、わたしの赤ちゃんに会える。

わたしはうれしくて仕方がなかった。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

もうすぐお母さんになります。

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