第26話

雪が降り出した。

わたしたち馬は寒いのは平気だけど、庭の青草はそうもいかない。

だから、寒くなるとお兄さんたちが庭に牧草ロールというものを運んできてくれる。

わたしたちはこれが大好き。

庭の台に置く前からみんなで集まって食べる。

食べながらみんなでいろいろ話をしていると、あっという間に部屋に戻る時間になる。


部屋に戻ってお兄さんたちに手入れをしてもらってると、お腹の中で赤ちゃんが動いた。

お兄さんも「あー、動いてるねー」とうれしそうだ。

わたしもなんだかうれしくなってくる。


「赤ちゃん動くとうれしくなるよねー」

チョイナさんが部屋から顔を出してきた。

「前の仔が初めてだったから、あたしもシュシュの気持ちわかるんだよ」

チョイナさん、優しい顔で言う。まるで前の仔を思い出してるみたい。

チョイナさんの子供って、どんな仔だったの?

「そうだねぇ……。ちっちゃくて最初は心配したけど、好奇心がすごい仔だったねえ」

チョイナさんが続ける。

「ちょうどここで産まれてね。前の廊下があの子の遊び場だったんだよ。今頃本家で何してんだろうかね」

少し遠い目をしてたチョイナさん、ふと思い出したかのように「あたしんとこも動いたよー」って笑う。


チョイナさんのお腹はわたしよりも大きい。

「たぶんあたしの方が先に産まれると思う。うるさくしてたらごめんねー」

チョイナさんはそう言うと、部屋の奥に引っ込んでいった。


それから何日かした夜中のこと。

チョイナさんの部屋でバタバタと音がする。

お兄さんたちが来てくれて何かしてた。

わたしからは何も見えなかったけど、壁さんがしっかり見てたみたい。

「朝になってのお楽しみやで」

相変わらずすぐに答えを言わないなあ……。


次の日の朝。

チョイナさんの部屋からかわいらしい仔馬が出てきた。

「かわいいでしょー。女の子だったよ。お姉ちゃんよりは大きく出たかな」

チョイナさんも顔を出してこう言った。

うん、すごくかわいい。

「シュシュももうすぐだねー。しばらく群れには出られないけど、シュシュはみんなと運動しておいでよー」

うん、そうしてくるね。


庭には雪がたくさん積もってる。

牧草ロールまで行くには雪をかきわけて行かなきゃいけない。

わたしが先頭に立って牧草ロールまで歩く。

いい運動になるのもあるけど、おいしい牧草のためだもの。

雪ぐらいで億劫がってちゃいけないと思わない?


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

お隣が賑やかになりそう。

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