第25話

それからしばらくして、わたしとチョイナさんは小さな家に引っ越した。

わたしたちがお産をして、子供がある程度大きくなるまで過ごす家。

3つしかない部屋のうち、わたしが真ん中の部屋をもらうことになった。

左側がチョイナさんの部屋で、右側には誰もいない。

その代わり、何に使うかわからない道具やら、わたしたちの大好きなルーサンが積まれてる。

「あたしは去年と同じ部屋だねえ。シュシュと隣同士になるとは思わなかったよー」

チョイナさんが部屋に入るなりこう言った。

わたしは右側のほうが良かったかな。だって、ルーサンいっぱい食べられそうだもの。


「そんなんしたらお腹壊すやで。やっぱりここでええやで」

あれ?壁さん?壁さんもこっちに引っ越し?

「当たり前やで。野次馬するのに遠くなったらかなわんやで」

壁さんが笑いながら言う。壁さんはいろんな事を知ってるし、いろんな事を教えてくれる。

だからいると心強いのは確かなんだけど……。


「シュシュがようけ食うから、お兄さんが牧草山盛りにしてったやで」

この通り、いつも一言多い。それさえなきゃなあ……。

「せやせや。お姉さん、しばらく見てへんやろ?」

そういえば、しばらく見てないよね。あんまりおしゃべりしないけど優しい人だよね。

「お姉さん、ここの本家に移動になったんやて。代わりに別なお姉ちゃんが来るやで」

ホント、壁さんはいろんな事を知ってるなあ……。


新しく来たお姉ちゃんは、いっぱいお話をしてくれる。

ご飯の後は遊んでくれるし、ニンジンもくれる。

最初はニンジンは苦手だったんだけど、前のお姉さんやお兄さんが工夫してくれたおかげで食べられるようになった。

今じゃニンジンは大好物。毎日もらえるからとってもうれしい。

でも、一日一本だけなんだよね。せめて二本はほしいなあ。


庭に出れば、ダヨーさんが見たことのない馬と一緒にいた。

「新しいお友達でデュエットって言うんダヨー」と、ダヨーさんはうれしそうに言う。

鹿毛のかわいらしい顔をしたデュエットさんはちょこんと挨拶をした後、こう言った。

「シュシュさんのお部屋って、他と少し変わってますのね。ゴム張りの壁に山盛りの草……。ずいぶんと頑張ったんですね」

わたしは苦笑いするしかなかった。


久しぶりに、お兄さんが部屋でお話をしてくれた。

それを聞きながら、わたしはかごの草を食べる。

なかなか今日のはみっちり詰まってて取りにくいな……って、あれ?


バサッと音がして、牧草が頭の上に降ってきた。

それを見たお兄さんは大笑いしてる。

なんでよ、食べられるからいいじゃない。

わたしは頭の上に乗った草を食べ続けてた。


新しい環境に慣れるのは大変とはよく聞くけど。

お兄さんやお姉ちゃんはいろいろしてくれる。

チョイナさんもいるし、なんとかやって行けそうな気がした。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

新しい暮らしに不安はなかった。

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