第20話

何日か経った日のこと。

お兄さんが見たことのない馬を部屋の前に連れてきた。

誰だろう?壁さんがニヤニヤしてるのは気になるけども。


「お姉ちゃん!」

向こうの馬がこう呼んできた。もしかして、この子が妹かな?

目のくりっとしたかわいらしい顔をしてる。

わたしにも似てるのかなあ……。


「お姉ちゃんも、ママにご飯は残さないで食べなさいって言われたの?」

部屋の向こう側でこう言われた。うん、この子はわたしの妹。

そうだよと答えると、妹は少しほっとしたような顔になった。

「良かったー。ママにね、一番上のお姉ちゃんはよく食べて大きくなったから、あなたも残さず食べなさいっていつも言われてたの。」

お母さん、わたしのこと覚えてたんだ……。


「だから、わたしもお姉ちゃんみたいにご飯いっぱい食べて大きくなったんだよ!」

妹はそう言うとえっへんという顔をした。そして、

「お姉ちゃんはママにそっくりだね。会ってママを思い出しちゃった。お母さんもご飯いっぱい食べてたんだよ。」

なんだか泣かせることを言ってくれた。


お兄さんが妹を連れて行った後、壁さんが感慨深そうに「ええ仔やね」と言った。

そりゃそうだよ。わたしの妹だもの。

「しかし、よう食うのは家系やったんやなあ……。」

今度は呆れたような声で言う。わかってるよ、自分が食いしん坊なのは。

「まあ、よう食うようでないと稽古もつけられんし、ええ仔も産めんのやで。だからええこっちゃ。」

今更フォローしても遅いよ。わたしは壁を蹴るフリをした。

「そうそう、またシュシュがびっくりすることが起きそうやで。」

壁さんは話をそらす。なあに?びっくりすることって。

「それを言うたらびっくりせんやろ?当日までのお楽しみやで。」

今度はニヤニヤしながら言う。わたしは思いっきり壁を蹴り上げた。

壁さんの悲鳴が聞こえたけど、気にしないことにした。


妹に会えてびっくりしたけど、またびっくりすることって何だろう。

考えてたらつい食べ過ぎてしまった。

庭に出たら少し歩こうかな。

そんなことを考えながら、少しだけ目をつぶった。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

まだびっくりすることの正体は知らなかった。

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