第19話
「ご飯は残さず食べなきゃダメですよ。」
わたしはやっと食べられるようになった青草をかじりながら聞いていた。
「いつどんなことがあってもいいように、用意してもらったご飯は全部食べるんですよ。」
もう、わかってるよ、お母さん。
……懐かしい夢を見た。
産まれて半年ぐらいの頃の記憶。
忘れてたと思ったのに、どこかで覚えてたみたい。
でも、お母さんの顔だけはどうしても思い出せなかった。
わたしのお母さん。
少しでもわたしが遠くに行くと、すぐに探しに来てくれた。
少しでもわたしがかゆそうな素振りをすると、すぐに体中をなめてくれた。
そういうことは思い出せるのに、顔だけが思い出せない。
悔しいなぁ……。
こんなことを思い出したのは、たぶん壁さんのせい。
妹がここに来るらしいって言うから。
産まれて半年近く経ってお母さんと離れたから、妹がいるなんて聞いたこともなかった。
けど、いるなら会ってみたいなと思った。
きっと、お母さんに似てると思うから。
庭に出たら大騒ぎになってた。
マフィンさんとハルちゃんが実家に帰ることになったみたい。
ハルちゃんは「実家でボスになるんです……ふふふ」ってなんだか不気味なこと言いながら車に乗っていった。
マフィンさんはずっと「エミちゃああああああん」って泣いてた。よほど離れたくないみたい。他の馬たちもなんだか落ち着かない感じだし。
でも、当のエミちゃんは柵をかじったまま、マフィンさんの方を向こうともしない。
やっぱ、エミちゃんは強いんだね。
お兄さんが、今度妹を連れてくるよって教えてくれた。
すごくうれしくて、いつもより速くご飯を食べてしまった。
「今日明日に来るんやないんやで。まるで仔馬やないか。」
壁さんが苦笑いしてる。確かに、お母さんの言いつけを守ってる子供みたい。
もしかしたら、妹もお母さんにご飯は全部食べなさいって言われてたのかな。
会ったら聞いてみなきゃって思った。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
早く妹に会いたい。
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