第18話
そういえば、こんな事があった。
お兄さんが庭の手入れをするのに、大きな機械に乗ってやって来たことがあった。
わたしは平気だったんだけど、エミちゃんはその赤い機械が怖かったみたい。
「シュシュ、早く早く!あっち行こう!」ってしきりにわたしを呼んでた。
普段は柵をかじってばかりだけど、こういうところもあるエミちゃんは嫌いじゃない。
庭に出てるときは、お兄さんたちがお弁当を持って来てくれる。
部屋で食べるご飯もおいしいんだけど、庭で食べるお弁当もおいしい。
このお弁当、わたしたちの頭数ぶんあるはずなんだけど、必ずエミちゃんが途中で「わたしにも味見させなさいよ」って食べに来る。
そうなるとわたしはエミちゃんに譲らなきゃいけない。わたしだけじゃなくて他の馬もそう。
こういうときのエミちゃんはあんまり好きじゃない。
でも、エミちゃんが味見した後のお弁当、わたしがこっそりもらうんだけどね。
みんなでお弁当を食べた後、ハルちゃんが気合を入れてエミちゃんの元へ向かって行くのが見えた。
わたしは群れから離れたところにいたからよく聞こえなかったけど、かなり派手にやり合ってたみたい。
しばらくしたらハルちゃんがしょんぼりしながら戻って来た。
「子供も産んでないのにでかい口を叩くな!って言われました~……」
ハルちゃんの落ち込みっぷりは、見てるこっちが辛くなるぐらいだった。
あれ?でもエミちゃんだって子供いないよね?
「これでハルちゃんも大人しくなるやで。」
次の日部屋に戻ると、壁さんは少しがっかりしたような声で言う。
「あの仔はああすることでしか自分を認めてもらえないと思うてるのかも知れないやで。」
壁さんはそこまで見てたのかな。
「まあ、エミちゃんに喧嘩売るのは早すぎやで。エミちゃんは誰が見たって立派なボスやで。」
だよねえ。わたしも見習わなくちゃいけないな。
「弁当の桶を片っ端から食うのは見習わなくてええんやで。」
返事の代わりに、わたしは壁をしっぽではたいた。
窓の外では、お兄さんたちが働く声がする。
ここではわたしたちよりずっと若い馬にしつけをすることもしてるみたい。
「そうそう。今度ここにシュシュの妹がしつけで来るらしいやで。」
壁さんが教えてくれた。
わたしの妹かぁ……。
会ったことはないけど、楽しみだな。わたしに似てるのかな。
「きっとシュシュに似てご飯いっぱい食う仔やで。」
壁さんが言うから、きっとそうなのかもしれないね。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
群れが平和ならそれでいいかと思ってた。
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