第17話

壁さんの言ったとおりだった。

ハルちゃんはしばらくすると、群れの他の馬たちにもアタックしていった。

わたしにしたのと同じように、かいがいしく世話を焼こうとする。

だけど、ここの群れの馬たちはみんなひと味違う。

よく言えば個性的だし、悪く言えばクセが強い。

ハルちゃんはだいぶ苦労しているようだった。


フェザーさんには軽く追い払われ。

エルメスさんには「好きにしたらぁ?」と放り投げられ。

マフィンさんはエミちゃんを追いかけるのに忙しく。

エミちゃんは柵を噛むのに夢中で目もくれず。

ハルちゃんはその度にぐったりした顔で戻って来た。

あ、リリックさんの時だけは違ってたな。

「何を考えてるかわからない……」って、ハルちゃん自分から引き上げてきた。

そうだと思う。わたしたちだって、リリックさんが何を考えてるかわからないんだから。


ハルちゃんが他の馬に行くからわたしは楽になって、他の馬たちもあまり相手にしていない。

ハルちゃんだけが、いつもフウフウ言いながら動いてる。

どうしてそんなに頑張るのと聞くと、ハルちゃんはふんと鼻をふくらませてこう言った。

「この群れのリーダーになるんです!」

ええええええ!?


馬の群れには順位というものがあって、色んな事があって決まる。

決まった順位はそう簡単に変わらない。

ここのリーダーはエミちゃんで、それもずっと変わらない。

わたしはずっと下の方だけど、ご飯がおいしければ順位なんてどうでもいい。

でも、ハルちゃんはそうじゃないみたい。


「この分やとハルちゃん、エミちゃんに向かって行きそうやで。」

部屋に戻ると壁さんがニヤニヤしながら言う。

エミちゃん大丈夫かな。ハルちゃんに負けたりしないかな。

「エミちゃんはここで一番のリーダーやし、そう簡単に負けないやで。」

壁さんはこともなげに言う。

でも、本当に大丈夫なのかな?

「少しぐらいおもろくなってくれんと野次馬してる甲斐がないやで。」

壁さんが笑いながら言った。わたしは思いっきり壁を蹴り上げた。


ハルちゃんが何かしでかさないか心配になる。

ハルちゃんがどうなるかはともかく、群れが平和ならそれでいいんだけどな。

壁さんが面白がってるのが気になるけど、わたしにはどうにも出来ないし。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

何かが起きそうな気がした。

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