第15話

お祭りからしばらく経って、種付けの時期も終わったなあとお兄さんが言ってた。

エミちゃんは何度か種付けに行ってたけど、結局赤ちゃんは出来なかったみたい。

「楽しみが先に伸びただけよ」ってエミちゃんは言うけど、いつも一緒にいるマフィンさんがすごく残念がってた。

お母さんになるのも一苦労なんだね。


いつものように、梅ちゃんと並んで青草を食べてたら、梅ちゃんが急にこう言った。

「あのねシュシュ、大事な話があるの」

顔を上げると、梅ちゃんが真面目な顔をしてる。

「わたしね、帰ることになったの」

え?梅ちゃんってここの子じゃなかったの?

「わたし、本当は九州の子なんだ。種付けの間だけここにいるって約束で来てたの」

そうだったんだ……。


「種付け終わってお医者さんがいいよって言ったら、九州に帰らなくちゃいけないの」

わたしは黙って聞くしかなかった。

「明日、帰ることになったから。本当は言わずに帰ろうかと思ったけど、シュシュには言わなくちゃって」

なんだか悲しくなってきた。


「だって、シュシュは大事な友達だから」

やっと梅ちゃんが笑顔を見せた。

「本当のこと言うとね、ここに来て周りは知らない子ばっかりで寂しかったんだ。でも、シュシュがいたからなんとかなったんだよ」

そうなの?

「ここのこともシュシュのことも絶対に忘れないから。たまにはわたしのことも思い出してね。でも、泣いちゃダメだぞー」

そう言って梅ちゃんは笑った。


次の日、大きな車に乗って、梅ちゃんは帰っていった。

わたしは遠くの方からちらっと見ただけで、見送りはしなかった。

いや、出来なかった。

梅ちゃんを見たら泣いてしまいそうだったから。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

大事な友達が遠くに行ってしまった。

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