第14話
今日はいつもとなんだか違う。
お庭に出るはずの時間になっても外に出られない。
お兄さんもなんだかそわそわしてる。
隣を見ればエミちゃんが「なんであたしも出られないのよっ」と柵をかじりながら怒ってる。
今日は「カメラ」の向こうがお祭りで、お兄さんたちも手伝うみたい。
だからわたしは出られないんだって、壁さんが教えてくれた。
それじゃあエミちゃんが怒るのも無理はない。
わたしは部屋の中がいいんだけどな。
今日のお兄さんはちょくちょく部屋を掃除に来る。
そして見つけたものを「カメラ」の前に見せる。
それがお祭りの手伝いらしい。
変なの。
「でも、これでシュシュを見る人が増えるかもしれんのやで」
壁さんが言う。
「カメラの向こうでは色んな人が馬の普段の暮らしを見たがってるんやで」
そうなの?何の変哲もない暮らしなのに?
「それがなあ、普通はなかなか見られないもんなんやで」
壁さんがため息をつきながら言った。
「普通、人間が馬を見られる機会も場所も限られとるんやで。そこでも普段の馬はまず見られないんやで」
わたしは黙って聞いていた。
「それでも馬好きな人間は多いし、普段馬はどうしてるんやろねっていつも思うとる。それをシュシュを通して見られるってんでみんな集まってるんやで」
そういうことなんだ。
「これで誰かが喜んでくれるならええこっちゃ。でもシュシュもずっと見られてて大変やなぁ」
全然。だって壁さん気にしないでいいって言ったでしょ?
「せやったな……」
壁さんの苦笑いが聞こえた。
外ではマフィンさんって馬がエミちゃんを呼ぶ声がする。
マフィンさんはエミちゃんが大好きみたいで、いつも後ろにくっついてる。
でも、こんなときに梅ちゃんはわたしを呼んでくれない。
目に付くところにいないと近づいて来ないし、呼んでくれることも滅多にない。
わかっちゃいるけど、なんか寂しい気がした。
お祭りも終わったみたいで、お姉さんが晩ご飯を持って来てくれた。
桶をかけるときに一言だけ「お疲れ様」って、誰にも聞こえないように言ってくれた。
その日のご飯は、いつもよりおいしい気がした。
わたし、サラブレッド。
名前はシュシュブリーズ。
誰かが喜んでくれるのっていいなと思った。
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