第7話

音の出るものが好き。

最近は水桶でバチャバチャやると楽しいことに気づいた。

部屋にいるときはよくこうして遊んでる。

遊んでるときは何も考えないでいられるから。


前はよく壁を蹴って遊んでた。

前にいたところと晩ご飯の時間が違うんで、最初はイライラして蹴ってた。

でも、音がいいから、そのうち何もなくても蹴るようになった。

蹴ってると悲鳴のような音がすることもあるけど、気にすることはなかった。


そのうち、お兄さんが部屋の壁に細工をしたみたいで、いい音が出なくなった。

わたしは蹴るのをやめた。


新しい遊びを考えなくちゃいけないなと思っていたら、ご飯の桶に目が行った。

「確かこれって動くよね……」

鼻と頭で押してたらぐるっと動いた。

ご飯の桶は金具で吊されてるだけだから、動かそうと思えば動かせる。

これを動かせたら楽しいかもと思った。


しばらくグルグルさせてたら、金具が外れて桶が転がった。

どうしよう、お兄さんやお姉さんに知られたら怒られる。

急に不安が襲ってくる。


「何にも心配ないんやで」

またあの声だ。こんなことバレたら怒られないの?

「他にもこういうことする馬おるし、お兄さん方は慣れてるはずやで」

そんなものかしら。


そのうちお兄さんがご飯を持ってきたけど、「あれ」と一言だけ言って、ご飯を桶に入れてくれた。

ただし、落としても割れない桶に。

「これで安心なんやで」

あの声は笑ってた。聞けば他にも桶を回す馬がいるみたい。

お兄さんたちも大変だ。


ここのところ、時々お医者さんが検査に来てる。

お兄さんは横で「まだですかねー、うーん」とか言いながら難しい顔をしてる。

梅ちゃんは結果が良かったみたいで「明日おでかけしてくるよー」ってニコニコしてた。

わたしもそのうちお出かけするのかなあ。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

お兄さんたちの苦労が少しだけわかった。

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