第4話

エミちゃんにこの間聞いたら、お兄さんはここのえらい人だったみたい。

「ちっとも偉そうに見えないところがいいのよね」って、エミちゃんは柵をかじりながら笑ってた。

確かに、えらい人には見えないし、どうかすると変な人にも見えるときがある。

でも、ご飯をくれる人だから。

とりあえず変なとこには目をつぶろうと思った。


庭に出れば、他の馬たちがいつもいる。

エミちゃんは他の馬の方にさっさと行ってしまうので、わたしはひとりになる。

前のとこではいじめられてたし、こっちにも怖い馬がいる気がして、なんだかそっちには行けなかった。

でも。

最近は庭に出たら必ず近寄ってくる馬がいる。

今日も出て来るなり「シュシュ~」と声がする。


「シュシュ、今日は何して遊ぶ?駆けっこなら負けないよ~」

その馬はにこっと笑いながら近づいてきて、わたしにじゃれてくる。

お兄さんたちはこの馬を「梅ちゃん」と呼んでいた。

わたしが答えずにいると、「じゃあ駆けっこに決まりね!さあ走った走った」とお尻を押してくる。

こんなに距離を詰めてくる馬は初めてだから、どうしたらいいんだろう。

変なことしたら怒られそうだし、正直不安。


「何にも心配ないんやで」

部屋のほうからあの声がした。

「単純に遊びたいだけやから遊んだったらええんやで」

それでいいならわたしにも出来る。でも、あなたは誰?

……やっぱり返事はなかった。


その日は梅ちゃんと思いっきり遊んだ。

他の馬たちが変な目で見てたかも知れないけど、気にしないことにした。

ここに来て、初めて心の底から楽しいと思えた気がした。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

初めて友達が出来た。

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