第3話

いつもご飯をくれるお姉さん。

この間はお姉さんに、しっぽを編んでもらった。

わたしが庭に出てる間に、お姉さんは部屋を掃除してくれる。

たまにしか遊んでくれないけれど、わたしはお姉さんが大好き。

だって、お姉さんが持ってくるご飯はおいしいから。


お兄さんはよくわたしの部屋でお話をしてくれる。

わたしたち馬のこと、手入れのこと、そのほかのことも。

でも、わたしの方を向いてお話してくれることは少ない気がする。

いつも部屋の上の方を向いてお話するから、もしかしたら変な人かなとも思う。

お兄さんが部屋から出た後、少し考えてた。


「なんにも心配ないんやで」

また、あの声がした。

「ここには『カメラ』ちゅうもんがあってな。あの人そこに向かって言うとるんやで」

カメラがあると何かあるのと聞くと、また声が返ってきた。

「あれを通してたくさんの人がシュシュを見て喜んでるんやで。みんな喜んでるんやからええやないか」

……そうだったのか。


初めて競馬場で走ったとき。

一番先頭でゴールして、みんな喜んでくれた。

またみんなに喜んでもらいたいなってのはずっと思ってて、走るのをがんばってた。

なかなか一番でゴールできなくて、みんなを喜ばせられないのが心残りだった。


「でも、わたしは何をすればいいの?」

こう聞くと、また返事があった。

「シュシュはいつも通りにしてたらええんやで。普通にしてるのがみんな見たいんやで」

いつも通りにご飯食べていいのかな。ところで、あなたは誰?

……今度は返事がなかった。


でも、いつも通りって何もしなくていいのかな。


わたし、サラブレッド。

名前はシュシュブリーズ。

喜んでもらうことの意味を考えるようになった。

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